先月31日、京都市動物園のライオン、ナイルさんがこの世を去りました。
国内最高齢のライオンとしてニュース等で目にされた方もおいでかもしれませんね。25歳。この冬を越えれば26歳を迎えるはずでした。
年末から、調子が良くないということは京都市動物園のブログで知らされてはおり、お正月に体調を持ち直したというのでホッとしていたのですが、先月末頃にいよいよ、ごはんを食べなくなってしまったとのことでした。
逝ってしまう2日前までグラウンドに出ていたとのこと、本格的に寝込んだ(?)のは2日ほどだったようで、まめ子の最期と同じだなアと思い出しました。まめ子も、死の2、3日前までよたよたしつつもお散歩やひなたぼっこをしていたのでした。まめ子は、私に老犬の可愛さを教えてくれた犬でしたが、ナイルさんも、お見かけするたびに、その可愛さと老いた動物の尊さや厳めしさを見せてくれるライオンでした。
当ブログでこれまで、ナイルさんが登場した記事は以下です。↓
***
そもそも、ライオンがわたくしの動物園巡回コースに加わったのはいつからだったでしょう。
京都市動物園年間パスを所有しておるわたくしめですが、強そうな人気者動物よりも地味で小さな動物が好きであるため、当初、猛獣コーナーはスルーすることが多かったのですよね。しかし、6、7年前でしょうか、老ライオンの夫婦が猛獣のくせにユーモラスで穏やかな表情を見せることに気づいたのは。
2013年3月の写真です。雄ライオンが執拗に雌ライオンの肉球を舐め続ける姿に私は心奪われたのでした。雌ライオンはリラックスした表情で転がっていました。
ライオンってこんな生き物だったっけ……。なんか猫みたいで(ネコ科だしね)かわいいぞ、と、この頃からライオンが私の巡回コースに加わり、彼らの姿を眺めるうちに、それまで「雄ライオンと雌ライオン」だった個体たちは「ナイルさんとクリスさん」になったのでした。
当時、既に老夫婦であったナイルさんとクリスさんの夫婦愛はいつも微笑ましく映りました。「夫婦愛」というのは、人間のソレを投影した言葉なので当人(当ライオン)たちの実感にそぐうかどうかは分かりませんが、たしかに二人(二頭)は、仲睦まじく暮らしているように見えました。ライオンが京都の地にいて、こんな近くでリラックスした姿を見せてくれることも、なんだかふしぎなものでした。
2013年4月、ナイルさんがクリスさんのお耳をかぷかぷ……そしてあくび。
2014年4月、京都の春の日差しの中でむにゃむにゃするナイルさん。ほっぺがむにゅっとなっています。この頃はまだまめ子もいた頃ですが、まめ子もよくこんな寝方(「犬が落ちてる」と表現していた)をしていたなア。
こちらはガラスの汚れが映り込んでいて、下手な写真ではありますが、二頭が背中合わせに寝ていて可愛かったので撮ったのでした(分かるかな~)。2016年12月。
クリスさんは2017年1月に先に逝ってしまいました。よって、クリスさんの姿を見たのは、このときが最後だったと思います。二頭が仲睦まじく暮らしている姿がとかく印象的であったので、ひとりになったナイルさんはどうしているだろう……と見に行ったらば、何やらカゴの中ですやすや寝てはってポワワとしたものです。この猫っぽさよ。
その後ナイルさんは、立ったり寝そべったり、ときどき雄叫びをあげたり。見物人から「なんや、ライオンもうヨボヨボやん!」「えらいガリガリやん」という声が聞かれることもありましたが、骨格が分かるほど痩せながらもスッと立ち上がる姿には、神々しささえ感じられました。ただ怖くて強い動物だと思っていたライオンを、こんなふうに眺めることがあるとは思いませんでした。
2017.3
2017.4
ナイルコーナーの壁に、若き日のナイルさんの写真集が貼られたのはこの頃だったでしょうか。私は少し前に祖母を亡くしたのですが、施設で最期を過ごした祖母の枕元には、彼女が若かった頃の笑顔の写真が貼られていました。晩年はもう喋ることも起き上がることもなかった祖母が、それまでの歴史や生活をもった一個の人格であることを思い出させる役割をそれは果たしていたと思いますが、この掲示も、ナイルさんのことをみんなに伝えようとする、スタッフさんのそんな思いが込められているのかなと感じました。
ナイルさんコーナーの周辺からは、彼を見守る動物園スタッフさんらのあたたかな思いが感じられました。晩年、安楽死をさせないのかという声を受けて書かれた文章は、動物園の姿勢が伝わる、とても良い文章だったと思います。
去年に25歳を迎えたときには、お祝いのメッセージがたくさん貼られていました。
可愛らしくかつ威厳ある彼の姿に、晩年ファンになった人も多かったかと思います。12月に動物園を訪れた際には、ナイルさんの檻の周囲に、名前を呼ぶお客さんや、一歩一歩歩む足取りに「ナイル、がんばって、ゆっくりね」と声をかけながら涙ぐむお客さんの姿がありました。ナイルさんは、痩せた身体のどこから出るんやと思われる、地鳴りのような雄叫びを発しており、やはりライオンなのやなあと感心しました。
私が最後にナイルさんを見たのは1月の半ば頃です。前足をコテンと頭に当てた、えらくラブリーなポーズでむにゃむにゃしておられ、思わず笑ってしまいました。
1月31日、かなり体調が悪くもうグラウンドに出ていないという知らせを前日に見ていたので、会えないとはと分かっていながらも、なんとも気になって朝に動物園を訪れました。自分がこんなにライオンの体調を気に掛けることがあるとは思いませんでした。(なおこのときはじめて「岡崎ループ」を利用したのですがめちゃ可愛いバスですな。) 知らされた通りナイルさんはグラウンドにおらず、少し寂しくはありましたが、いつものお昼寝台の干し草の上にぽかぽかと陽が差していて、何か祝福しているかのようで、あたたかな気分になりました。あとで知ったところによると、このときもうナイルさんはこの世から旅立っていたのですね。
今後京都市動物園はライオンの飼育をやめるそうです。ナイルさんがいなければ、わたくしは、老ライオンの愛くるしさや神々しさや尊さを知ることはなかったでしょう。ナイルさん、ありがとう。京都市動物園のスタッフさんにも敬意を表したいと思います。