ありがとう京橋ダイエー・フォーエバー



先月末のことになりますが、われらが京橋ダイエーが閉店してしまいました。
正確には、「京橋イオン」なんですけれど、われわれは京橋ダイエーと呼び続けていたのですよね。


夏頃、久々に行ったらば、「47年間のご愛顧感謝します」的な看板が立っていて「エエーッ!」と思ったのでした。京橋という街の魅力の45%くらいが京橋ダイエーの存在に負っていたというのに……なんてことを……。

京橋ダイエーは、そんなに頻繁に行くというわけではなかったのですが、昔から京橋に行くたびに寄っていたのですよね。けっしてオシャレスポットではないのだが、そこが好きだったのでした。ウェンディーズ(京都にはなかった)やドムドムに通った思い出や、大中でパンダグッズを買った思い出があります。
2016年、イオンになってしまったときは、ついに……! と衝撃を受けたのでしたが、中身を見てみればダイエー時代とまったく変わらず、地元の商店を集めたような、謎の安い服屋とか、近所の中高年向けっぽいお店やらが生き残っており、「よし!」と思ったものです。それでいて、ちょっと尖ったゴシックな服を売る店なんかがあるのも雑多な感じでよかったなあ。どっかのお店がなくなると、空きスペースで適当なものが売られ始めるのも、地元のおっちゃんおばちゃんが溜まるソファが残っているのも、最高でした。

現代のイオンモールなんかではあまり見かけない、たしかに70年代っぽい無駄な装飾があるのも、複数の建物を合体させた後らしくところどころ謎スペースがあるのも、アミューズメント感があって好きでした。

在りし日の姿です。クリスマスでもないのにこの無駄なキラキラ、最高じゃないすか?
楳図かずおの漫画に出てくる「昔のデパート」の描写にときめいたのを思い出すなあ……
ちなみにここのミスドは全国二号店だったとか。



階段上から見た様子。チョウチョがキラキラだ〜。



暗くなるとこんな感じで、エントランスの装飾が光ります。
今どきのイルミネーションとは違うけれど、素朴でイイ。



この看板の装飾もいいですね。



このエスカレータ横の装飾、全盛期にはさぞお洒落だったのだろうなあ! 好き……!
埃が溜まっちゃってるけど、きれいにしたら今でもかっこよかったんじゃないかなあ。
子供の頃、こうした建物にわくわくしていたのを思い出します。


こういうのは、壊してしまうともう作れないであろうから勿体ないことであります。老朽化などで仕方のない面もあったのでしょうが、テナントの人によると、イオンは急に閉店を言い渡してきたらしく、イオンめ!て感じです。

最後のひと月は、訪れるたびにあちこち写真を撮りました。



1階、「味の専門店街」。このネオンがイイ!
昔はラーメン熊五郎があったよね? 仕事帰りに食べました。


カフェは常連さんの住処って感じでちょっと入りにくかった記憶。でもお値段最高やな。。




3階、大北京。入ったことないけどちょっと高級な中華のよう。
最後の日は行列ができてました。移転して営業されるそうです。




こういうひっそりスペースが好きでした。奥はミスドの控室かな?



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9月に遠方からのお客さんが遊びにきてくれたときは、関係ないのにダイエーに案内して1階から4階まで見て回りました。
建築にくわしい(?)方なので、いろいろ教えてもらいました。
使われている電球が90年代の一時期に流行ったものであるとか、階段の手すりがおそらくローカル業者によるものであるとか。おおお〜。
たとえば、この「非常口」は今どき珍しい字体なのだとか。(髭あり。)


こっちはでっかい「非常出口」。



この建物は各階に、ショッピングゾーンだけでなく憩いのスペースみたいのがあるのですが、そこがイイ感じで無秩序で好きでした。張り出した窓からは京橋のレトロにケバい街並みが見え、お昼に、何をするでもなく人々がダラッとしていたり。キッズコーナーのゲーセンには、おじいさんおばあさんに連れられた子供がよくいました。

3階奥のキッズコーナー。9月中旬に既に閉まっており、淋しさを醸していました。



キッズの遊び場とアンパンマン自販機越しにビデオ試写室のネオンが見えるのも興趣あり。



同階にはヘルストロンが……。これ、いつもけっこう待合の人がいたんですよね……。



奥まったところに息づき、怪しい結社感を醸していたヘルストロンですが、閉店ということで初めて店の前まで行ってみました。この色遣いよ。



この階の虚無マップ。こんな虚無も、無くなってしまうと思うと淋しいですな……。



それにしてもこうして、なくなってゆくものの写真を撮っていると、自分ちの店を閉じたときのことが思い出されます。あのときもこうしてせっせと記録に残したものです。
私はどうも、なくなってしまうものの写真を撮るのが好きなのかもしれません。
というか、すべてのものはなくなってしまうものであるのだから、写真とはすべて、なくなってしまうものの記録なのでしょうが……。


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最後に訪れた日は、2階のオムライスと喫茶のお店、グラスガーデンに入りました。
ここは、常連だったわけではないですが、或る理由で京橋で落ち込んでいたときに休憩し心慰められた、思い出あるお店であります。





この日は、かつて見たことのないほどのお客さんが入っており、いつもの店員さんではさばききれておらず、大混乱でした。
一時間待ってやっとオムライスを食べました。
その間、しびれを切らして出ていったお客さんもいましたが、「大変やな」と言いながらずっと待っている常連さんらしき人や、中には自主的に手伝い始める(!)お客さんもいて、ああ、ええなあと思いました。
以前オーナーに教えられて知ったのですが、ここは実は、チェーン店「ポムの樹」の一号店なのだそうです。今の規格化されたポムの樹では、ここで使われている食器や装飾はもう使うことができないらしく、閉店後は廃棄するしかないなあと仰ってました。

店内は、クロスやカーテンは色褪せ、ソファもあちこち破れ、けっしてキレイではないんですが、観葉植物とちょっとした置物で溢れ、ゆったりした時間が流れているのが好きでした。今どき喫煙席が多いのもレアでした。








レジ横にあったオムライス模型↓ 前から可愛いなと思うてたので、最後に写真を撮らせてもらいました。
最後、オーナーが話しかけてくれて嬉しかったです。普通に世間話でしたが。



ここはポムの樹一号店、ミスド二号店の他に、ドムドム一号店もありました。
ドムドムは、去年のドムドム大量消滅期を生き延びリニューアルもしたというのに、母体であるイオンにやられるなんて……。復活を祈ります!


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閉店セール期間は、お客さんがいっぱいで、盛り上がりまくってエスカレートする呼び込みの声に笑いが洩れたりと、えらい活気でした。
これまでのダイエーを振り返る展示もあり、歴史の長さがよう分かりました。
スタッフさんとお客さんたちのメッセージも。




最終日は行けなかったのですが、シャッターが降りる瞬間は、涙した人もいたとのこと。店員さんがお花を配ったようでした。私は地元民ではなかったですが、地元民には便利でかつ、かつては本当にワクワクするような空間だったのでしょうな。
ネットで検索すると、SNSで京橋ダイエーを惜しむ声がたくさん見られ、愛されていたのやなあダイエー……としみじみしました。驚くべきは多くの人が、「京橋イオン」でなく、「京橋ダイエー」と呼んでいたことです。中には、「イオンとは絶対呼ばない」と強く主張している人もいて、なんだか、われわれは、滅びた王国の名を口伝えで語り続ける民であるような気分になりました。