最近読んだ漫画(2) 衝撃の連続、『かんかん橋をわたって』 を読むべし!

草野誼という漫画家を知ったのは、ウェブ広告でふと見かけた『愚者の皮』(「あよと英馬」篇)が最初でした。
広告に出ていたのは、整形に失敗して醜くなってしまった女が夫に捨てられる、という場面だったでしょうか。よくある下世話なネット漫画って感じで、下世話好きなわたくしは下世話な興味から読み始めたのでしたが、途中から、「な、なんなんだこれは……!!」 とすっかり引き込まれてしまったのでした。

導入は、よくあるレディースコミックの趣だったのが、整形失敗から物語は徐々に、異形の者のパワーを描くピカレスクロマンのような気迫を帯び始めます(整形失敗後の「醜い」顔がまた、漫画家の想像力をフル駆動させて描かれたような迫力でなんともいえない)。当初は 「かわいそうな妻とひどい夫」 話かと思いきや、主人公とその夫との関係は、異能者同士のバトルのような、憎しみと情愛の物語に変貌し、舞台を変えながら二人が試練を経験するさまは、一種の貴種流離譚のようで古い説話や語り物を思わせ、終盤は現代の社会福祉の課題にも接続する展開に……!?
「な、なんかすごいものを読んでしもた……!」という驚きとともに、この作家の名前は記憶されたのでした。






その後、他の作品を読む機会もあり、そのたびに、作風の幅や展開の奇想天外さに驚くとともになんなんだこれは……という思いを深めていたのですが、先日ついに、大作『かんかん橋をわたって』(全10巻)を読破してしまいました!





『かんかん橋をわたって』、これもウェブ広告で見かけたことのある人は多いのではないでしょうか? 私も何度か見かけたことがありますが、広告で抜かれている部分は、姑による嫁いじめの場面であったと記憶しています。「昼の2時のテレビでアホみたいに続いてる」(c:岡田あーみん)嫁姑110番に代表されるように、嫁姑モノというのは広く人々のエモーションに訴えるテーマであるようで、レディコミでも定番ですよね(嫁姑モノだけを集めた雑誌とかある)。この作品も、序盤はそんなふうに、典型的な嫁姑モノとして始まります。
主人公の嫁ぎ先の姑は、独特の気風をもつその地域でもひときわ癖のある、「川東一のおこんじょう」と呼ばれる女。実に巧妙に主人公をいびるのですが、本人ですらそのことになかなか気づかず、まして、夫はまるで気づく様子もありません。エスカレートするいびり、脳天気な夫……主人公とともに歯噛みをし、ヤキモキしながら読者は読み進めることになります。


しかし、序盤は単なる嫁vs姑モノであったはずが、嫁姑番付なるものの登場から、地域の女たちの友情・努力・勝利の話になり、やがて嫁と姑が男塾的絆を築き始め、ついには「グレート義マザー」とでもいうべき、町のすべてのものたちにとっての姑が登場し、さらに先住民族としての大姑の登場、また、ラスボス同士の決戦へ……!? ……何を言っているのか分からないと思いますが、本当にそういう話なのです。とにかくすべてが衝撃の連続です。
この作者お得意の、日本を舞台にしていながらファンタジーのような世界像や、説話的展開も健在で、「川南説」のエピソードはまるで現代日本の寓意のよう。『愚者の皮』と同じく、女たちの自立と連帯というテーマにはフェミニズムの精神が感じられ、またときどき現れる豆知識的な生活の知恵も楽しく、かつ、随所でほの見える変態性も効いています。……ってますます何を言っているのか分からないかと思いますが、読めばだいたい納得してもらえるのではないかと思います。
なお、私の特に好きな場面は、「番付9位の登場」の場面です。


それにしても、こんな作品を描いてしまう、作者はいったい何者なのだ……と作者ブログを見てみましたら、女性だと思い込んでいたのだが男性で、意外にもお茶目な文章で普通の人っぽく(もっと孤高の民俗学者みたいな人かと思ってた)、しかし一方で靖国大好きで「ネトウヨ」を名乗っている(作風からは全くそんなふうには見えない)……など最早わけがわからず、更にまた「なんなんだこれは!!」が深まりました。