春の縁切り絵馬大会 - 京都ぬるぬるブログ2.0

3月末の、まだ咲き初めの美しい桜。
しかしこれは件の、縁切り神社に咲いた桜でございます。
縁切り神社にも桜は咲くのでございます。

縁切り神社、いつの間にかえらい人気神社になってしまったようで、例の縁切り碑の前には、何かと縁を切りたい人が長蛇の列！（列の中にスマホで当ブログをご覧になっている人が！）　
絵馬の前にまで列が回り込んでいたので、いつものようにじっくり観賞できず無念でありました。
それでもいくつか「これは」というものを収穫してまいりました。怨念も満開でございます。

【定番】

まず、定番でふつうなもの二件（もはや「ふつう」の基準が狂ってきている気もしますが）：

まあごくふつうの縁切り絵馬って感じです。
「イナクナッテシマイマスヨウニ」部分だけがカタカナであるのがやや不気味で、縁切り神社で絵馬を書く人は、こうした「縁切り絵馬文法」とでもいうべき表現形式に自ら適合していく傾向があるように思います。

これもふつうの縁切り絵馬なのですが、「不運続きの彼に別れを告げられず、情に流されてしまう」というところに、自分勝手になりきれない絵馬主の優しさが表れているようで、思わず撮影してしまいました。誰が悪いわけでもないけれどギクシャクすることってあるよね……。

と、以上はふつうに、「上手く行くといいね」と共感してしまう絵馬でございます。

【ペット】

こちらも一見ふつうの縁結び絵馬ですが、「ペットになりますように」のひと言が効いています。

【最後の一文】

こちらも一文が強烈な異物感を放っている例。

前半は、職場の人への激しい悪口、後半で、やや調子に乗ってる感はあるもののまあまあ可愛らしい恋愛祈願と家族への思いでちょっとほのぼのしたかな、と思いきや、ラストに無造作に投げ込まれた「早く死にます様に」でノックアウト。
それにしても縁切り絵馬たちのこの独特のリズム感はなんなのでしょう。

【縁切り文体】

以下は引き続き、The縁切り絵馬文体とでもいうべき絵馬3件。
妙にリズム感のある呪いの言葉が境内にあふれているのを見ておると、上にも書きましたように、人間の文体というのは、その人の個性のみならず「場」（縁切り神社という場）にも影響を受けるものなのであるなあ、と思います。

まずは何か事情ありげな絵馬。

当ブログで何度か扱ってきた「お母さん絵馬」の変種かとも思われますが、それより気になるのは下から二行目の「ふとどきな悪党です」という言い回しです。この、「絵馬を書くと言い回しが古風になる」現象、前から気になっているのですよね……。

次もなんだか複雑な因縁がありそうな絵馬。

この一族がどんな被害を受けたのかはわかりませんが、これもやはり、普段なら用いないであろう言葉遣いが気になるところです。「きさま」「過ちの報いにより「一人で絶命しろ」など。そして最後にポツリと書かれた「恨み」の文字が怖い。筆跡はきっちりしていて可愛らしいのがまたアンバランス！

こちらは殴り書きのような筆跡とところどころの誤字にも関わらず（あるいはそれゆえに）ひしひしと情念が伝わる系。「何如（原文ママ）かというとキライだからです。憎くてしょうがないからです。特にあのはげと池おちたやつとイキリミス奴としこってばっかのやつとくそビッチ女、ダーリンダーリンうるさい奴まじであいつらは許せません」という、『桐島、部活やめるってよ』のごとき（※先日原作を読みました）学園青春群像に続き、「殺すギリギリまでやっちゃって下さい。殺すのはちょっとダメなのでケガ（軽いケガ）低度（原文ママ）までやっちゃって下さい」という優しさを見せているところもイイ。
というか「やっちゃって下さい」とか言われる神様って一体。

（ちなみに「イキリミス」という若者語の存在をこの絵馬で初めて知りました。）

【注釈付き】

近所トラブル系ですが、こちらもまた、丸カッコを用いて注釈が付されているのが注目されます。

「隣人（●●さんではなく、角の賃貸に住む前科有りの男性）」……神様が間違えて●●さんとの縁を切ってしまわないようにとの気遣いから書き添えたのでありましょう。
縁切り絵馬はいずれも、神様が縁切り対象を間違えないよう注意が払われています（相手の氏名住所等個人情報を記載する、ときには写真を貼る、など）。
この神社ほど、神に語り掛ける際の人々の細心の注意が見られる神社はないのでないでしょうか。様に分かりやすく伝わるように・誤解のないように・確実に伝わるように、みな工夫を凝らしています。

【他力】

これも定番の、妻と別れたい男性の絵馬。