【津軽旅行記】ねぷた(ねぶた)巡り ~弘前・五所川原・青森

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この旅では思いがけず、三つの都市のねぷた(ねぶた)施設を訪れることとなりました。

これまでねぷた(ねぶた)についてはなんも知らず、「あの、東北でやってはる派手ででかいやつ!」くらいの認識しかありませんでしたが、このねぷた(ねぶた)巡りを通してすっかりわれわれはねぷた(ねぶた)ファンになったのでした。

 

弘前津軽藩ねぷた

最初は弘前。城の横に津軽藩ねぷた村」というものがあったので、「へえ、そういえばねぶたって青森の有名なやつやな、一応見てみよか」と寄ってみたのでした。

ねぶたがどんなものかもよく分かっておらず、神輿みたいなやつがそのへんに展示してあるんかな~~とぼんやり思っていたらば、ちゃんとした見学施設。入館料要るんや、まあええか、なんぞと言いつつ入ったのでしたが、これは、入ってみてよかった……!!

 

まずは椅子の並んだホールに通されて解説&囃子の実演がありました。閉館ぎりぎりに入ったためか客はわれわれ母娘だけで、有難いことに個別授業状態。ここで初めて、ねぷたorねぶたというものは津軽(とその近辺)の各地域にあってそれぞれその形状や囃子が違うということを知りました。「ねぷた」の語源には諸説あるようですが、ここでは「ねぷてー(眠たい)→ねぷた」説を採っていて、眠気を祓うための「眠流し」がもとになっているという説明でした。私はつねに眠い族であるので、一気にねぷたに親近感が湧きました。弘前の囃子は「ヤーヤードー」だけれどこれも他の都市は異なるとのこと。旅行に来るとこうして、その地域ごとの「なんとなくは知っているがよくは知らなかったもの」に触れられるのが有難いな~。

 

太鼓も叩かせてもらいました! 太鼓でかい!

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弘前ねぷたは扇型。表は三国志水滸伝に題を採った絵が描かれ、裏は美しい女性の絵が描かれるのが定番だそうです。

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金魚や野菜をかたどった可愛いねぷたたちが展示されていた一方で、こわいねぷたもありました。これは生首のねぷた

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かつて(昭和初期まで)はねぷた喧嘩禁止令」が出るほどねぷたには喧嘩がつきものであったそうで、こうした陰惨ねぷたは相手方を威嚇するために作られたそう。ふええ。弘前ねぷたはそもそも江戸末の浮世絵の影響を受けていて、表の「サムライズム」、裏の「エロチシズム」に「サジズム」の要素を加えることで面白味が出ている、という解説(長谷川達温絵師による)も読み、ホオオと思いました。

それにしても、ねぷた喧嘩のような話を聴くと、「祭」とは何かということを考えさせられます。優雅に思われがちなわれらの祇園祭も、かつては巡行の順番をめぐって死人が出たらしいし……。そうした暴力的エネルギーの解放の場が祭であるとするなら、(少なくとも建前上)暴力を廃する方向になっている現代において祭の意義とは何なのか、そうしたエネルギーはどこへゆくのであろうか……とか。

 

ホールで津軽三味線の演奏が始まるというので観に行きました。奏者は相沢裕斗さん。

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解説を交えながらりんごの歌(「りんご節」?)とじょんがら節の二曲を演奏されたのですが……! めっちゃかっこよかった……!!これは聴きにきてよかった~~~!! すごかった! 青森は私の中で「やたらロックな人を輩出する土地」というイメージでしたが、その源流を見た気がしました。

解説によると、もともと津軽三味線は盲目の人が演奏するものであり差別されてきた芸であったが、ラジオで当時の名人が演奏したことで全国的に有名になったそうです。三味線といえばお座敷芸のイメージがあるが、差別を受けていた人々が迫害されながら演奏していたため座敷には上げてもらえなかった、そこで外でも音がよく聴こえるように撥で鼓を叩いて鳴らす奏法ができた、かつ、人の住むところでは世界最大の積雪量である青森で(これも初めて知りました)、演奏中に指が凍えてしまわないよう複雑な動きをするようになった、等。奏者が盲目で譜面が読めないという事情もあってか、じょんがら節は奏者によってそれぞれのアレンジが加えられてきたそうです。

 

「一応見ておくか」くらいの気持ちで入ったねぷた村でしたが、われわれはすっかり圧倒され、「よかった~~」「すごかった~~」と言いながら弘前を出たのでありました。

 

弘前駅にいたつがにゃんねぷた

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今調べたら実際に出陣して雨にぬれたりしていたっぽい。
津軽のPRキャラクター「つがにゃんねぷた」 雨による「ダメージ」から復活 - 弘前経済新聞 (keizai.biz)

 



五所川原立佞武多の館

弘前で、それぞれの都市のねぷた(ねぶた)の特徴を教えてもらいまして、五所川原のは「立佞武多」といってめちゃでかい、というような話を聴いたので、それも見てみたいねってことで翌日は五所川原立佞武多の館」へ行きました。

 

周囲は高い建物もない落ち着いた街なのに、この建物だけ妙にでかくて立派。土産物売り場を抜けて中へ入ると、なるほど! 吹き抜けにねぷたが展示されているのですが、その丈20メートル余り。この建物は展示と保管を兼ねており、祭りのときはここから出陣するのですな~~。ロボットアニメのロボット基地みたいや!

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とにかく「でかい~~でかい~~~」という素朴すぎる感想を言い合うわれわれ(このあと斜陽館でも同じ感想を言うことになります)。思わず母に高島屋よりでかい?」と訊いてしまいましたわ。子供の頃の私には一番高い建物が四条の「高島屋」「大丸」であり(※京都タワーは除外、京都ホテル・京都駅は当時改築前)、TVや本になんかでかいもんが出てくるたびに「高島屋より大きい?」「大丸より大きい?」と訊いていたのでした。高島屋との比較は知りませんが、立佞武多はふつうのビルのだいたい7階程度の高さとのこと、重さは19トン、それを人力のみで動かす! ふええ~~。

 

ねぷたの周りが螺旋状になっており、それを上階から下りながら諸々の展示を見られる式。ねぷたはどこから見ても凄い! モチーフは、スサノオ三国志かぐや姫。毎年三体が運行し、一体が新たに作られるそうです。高層ビルのない五所川原の街を立佞武多が練り歩いてゆくのはさぞかし壮観であろうなあ。

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上階では、佞武多に向けた津軽の一年間の映像を見ました。祭自体は夏だけれど、それに向けての制作の様子が収められていて、雪の中を走る鉄道の映像でぐっときました。寒いうちから準備が始まり、青森の短い夏に花開く……それが佞武多なんですね。五所川原立佞武多は、戦後、設計図が焼失して長らく途絶えていたそうです。そして民家から設計図が見つかり復活したのが90年代。復活したときはどんなだったんだろうな~~。祇園祭でも休眠山が復活することがあるとアツいな~~と思いますが、祭り自体が復活したのだからそれ以上の盛り上がりだったんでしょうね。発見されたという設計図も展示されていました。

 

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ま、また生首絵があった! なぜ残酷と祝祭は一体なのか。母はめっちゃびびっていました。

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こちらは可愛いやつ。各階にいろんな色のカエルさんたちがいて和みました。

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そしてIKZO!! 吉幾三立佞武多の歌も作っているのですね。郷土愛を感じました。立佞武多の囃子である「ヤテマーレ」が歌詞に歌われています。

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ちなみに立佞武多の館のすぐ近くには、吉幾三ミュージアムもあります。時間があったらちょっと行ってみたかった!

そうして展示を見ながら一階に戻ってくると再び下から立佞武多を見上げられる、という寸法。もう一度、やっぱすげ~~~でかい~~~と言い合います。母と写真を撮り合いましたが、母の撮ったやつはことごとく佞武多の頭が切れていました。

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かぐや姫の佞武多はうさぎさんもいて可愛い!
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見学終えて飲食コーナーでりんごソフトを食べました。とぐろの前にいるのは「ねぶたろう」。

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寒かったんでミニサイズにしました。シャーベットぽくて美味し。f:id:kamemochi:20240612161006j:image

旅行中、母はやたら「ソフトクリーム食べたいわ~~」とソフトを求めていました。なぜか旅情緒は母のソフトクリーム欲を刺激するようです。そういえば会津に行ったときも塔のへつりでチョコミントソフト(名物でもなんでもない)を食べましたっけ。子どもの頃の実家はわりと厳しい家で、食後に菓子を食うなど許されなかったのでしたが、今や実家にはいつ行っても割引の日に買い込んだアイスクリームが常備されており、食後にめいめいそれを食べることになっています。文化は変わるものです。だいぶ話が逸れました。

 

■ 青森・ねぶたの家ワ・ラッセ

さてさて、弘前五所川原、と見たらば、青森市のも見たい、ということで、最終日に青森空港へ向かう前に青森駅に寄り駅のすぐ隣にある「ねぶたの家ワ・ラッセへ。メディアでよく取り上げられているねぶた、多くの人が「ねぶた」といわれてイメージするのは、おそらくこの形態ですよね。

 

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大きさは、五所川原立佞武多を見た後だと小さく感じてしまいますが(実際は充分でかい)、造形の細かさがすごい! カラフルなのも良い! ちょっとヤン車みたいな色彩も私好みです。

 

上のねぶたの一部。煌びやかで素敵。

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上のねぶたを向かって左の側面から見たところ……なんだけれど、なぜか母は「鳥?」と言うていた(黄色い部分が嘴で鳥が横を向いているように見えたらしい、そのときはなるほどと思ったが今見るとよく分からない)。

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ねぶたは団体ごとに作られ、企業名が前面に出ていたり、賞もあったり、やはり青森市は都会なんやなあと感じました。賞は当初「田村麻呂賞」だったが、田村麻呂は青森まで来ていないことが明らかになったので「ねぶた賞」に改称されたらしいです。そういえば田村麻呂やアテルイをモチーフにしたねぶたも作られていました。こうした、中央からの進出とそれへの抵抗の物語は今の東北ではどのように受容されているのか、そういえば無知であるなと思いました。

 

ねぶたを触れるようになっているコーナーもありました。実際触ると、蝋が使われているところ(色が交じり合わないようになっている)や、細部の気の遠くなるような作業(細かな骨組みに沿って紙を貼る)がよく分かりました。

触っていたらスタッフの方が話しかけてきてくれたので、気になっていたことをいろいろ尋ねて教えてもらいました。まず、雨の日はどうするのか、という質問。特注の巨大なビニールをかぶせるらしいです。しかし雨で気になるのは破損よりも色が滲むことだそうです。破損はそこまで気にしない、賞をもらってワラッセに展示するもの以外は終わればすぐに潰してしまうから、とのことだそうでした。潰した部材は、最近はSDGsの方針に従って再利用できるものはするが、針金の巻き付いた材木などは再利用にも労力が要るので或る程度は仕方ないそうです。一台のねぶたにはどれくらいの人が関わっているのかという質問には、2~300人という答えでした。とはいえそれぞれのねぶた師の工房メンバーは互いに助け合ったりもする。冬が明けて三カ月の間にねぶた師はねぶたを制作し、他の時期は別の仕事をしている人もいる。細かい作業である紙貼りを担うのは女性が多い。などなど……。

 

展示されていたねぶたの中では、NTTグループのものだという「釈迦生誕」ねぶたが一番気に入りました。色彩も好きだし、動物がいっぱいいるのもイイ。

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他に、中学生が下絵を描いたという現代的なねぶたもありました。

最後は太鼓、囃子と「はねと」の実演を見ました。はねとの衣装素敵やな~~。笠が欲しくなってしまった。ここの囃子は「ラッセラー」でした。はねとの人たちは皆こなれたはね方で凄かった~~。
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青森市滞在はわずかな間でしたが、ワ・ラッセ以外にもいろいろ見ることができました。

 

ワ・ラッセはすぐ海に面しています。これは八甲田丸の隣にあった津軽海峡冬景色の碑」(ボタンを押すと曲が流れます)。

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駅前をちょっとだけ歩きました。駐車場の表記が「月極」でなく「月決め」だったのがなんか新鮮。

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今回三内丸山までは行けなんだのですが、駅ビルの「じょもじょも」で遺跡の解説を少し見られました。

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またゆっくり来たいなあ……。

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ねぷた(ねぶた)三施設を回りましたが、これ以外の地域でもそれぞれのねぶた(ねぷた)があるそうで、全部気になる! また、いつか実際の祭でねぷた(ねぶた)たちが動く姿を見てみたいものです。