雨が降りそうな日に 僕らはハニベ巌窟院へやってきた(前篇)


私はたとえば、名古屋へ出張するとなれば真っ先に 「名古屋 変なホテル」 などで検索してしまう、台湾へ旅行するとなれば 「台湾 変な寺」 などで検索してしまう、といった癖があるようで、この癖は最近認識したのでありますが、この変を求めてしまう性向のせいで、何かいろいろ誤った道を歩んできたのだとおもわれます。


で、先日石川に出向くことになり、例によって私は、「石川 観光地 変」 で検索したのでした。
で、出てきたのが、此方。
これまでその名は(愛好者の間で)耳にしたことがあったが、自分が行くことがあるとは思わなかった、ハニベ巌窟院
これは行かねばならない……敢えて詳しい情報は得ず、「ちょっと変わったお寺なんだな」くらいの心構えで訪れたので、どきどきも倍増でありました。






場所は石川県小松市の、山間部であります。
小松ICから郊外の道路を少し走った山の中、というロケーション、あの、台湾金剛宮のロケーションを思わせました。

しばらく細い山道を走ると、急に視界が切り開け、何の変哲もなかった田舎道に突如どでーん!と現れる巨大な仏塔。
この瞬間思わず漏れる笑い。
この、最初のインパクトから与えられる謎の多幸感こそが、パラダイスの醍醐味でありましょう!
(あ、パラダイスって言っちゃった……)
宗教法人ですが、宗派はwikiによると、「釈尊の教義を基礎とし各宗派にとらわれず独立に依る」とのことです。



ショベルカーの向こうに大仏。
このお寺というより土建屋感も、台湾金剛宮を思わせます。





この日はわれわれの他に参拝客(といってよいのか?)はおらず、売店におられた方がわざわざ門を開けてくださいました。
売店では、「ハニベ焼き」 が売られていました。ふきのとうの箸置きなど、普通に可愛いものが多かったです。
大仏グッズ(Tシャツ、マグカップetc)もあり。このあたりではちゃんと「観光地」として認知されているのでありましょうか?



売店を抜けると、お庭に出ます。大仏を側面から拝めます。
耳の形がものすごくてきとうなことにお気づきでしょうか?
実はこの大仏は未完成らしく、最終的にはちゃんと全身完成する予定……らしいのですが、未だその目処は立っていないようです。
連れは 「へーサグラダファミリアみたいなもんか〜」 と言うておりました。いや、違うだろう。





それよりも!
大仏さんの周囲にわらわらと点在する雑多な像たち……経験上、この 「仏像の周囲に統一性のない眷属がいる」 というのは、パラダイス的な寺の特徴だと思うのです!
寺ではないですが、ティールーム若王子のお庭がこんなだったなー と懐かしく思い出しました……。
(仏像あり自由の女神あり……一時期よく通っていたのですが、今はどうなっているのでしょうか?)








中でも私が狂喜したのがこのお馬さん!!
このお馬さんに出会ったときの、私の昂奮ぶりをお伝えしたいものです。
珍妙な色合いと装飾! なんともいえぬとぼけた表情! そして全体的に漂う安っぽさとキッチュさ!…… すべてが、此処から始まる魅惑の世界を予感させるに足るものではありませんか!
馬に遭った途端テンションが上がりまくり、思わずびよんびよん飛び跳ねて歓喜してしまい、ああ自分はほんとうにこういうものが好きなんだ!愛してるんだ! と実感しました。もっと他のことを実感したいものです。




ひひーん!




尻チェックする俺……
売店の中に大仏Tシャツが見えるのがお分かりでしょうか?





池の周りには躍動する三兄弟。寺であるのに、仏教感皆無。どういった事情で此処に配置されたのかまったく謎。嗚呼ー、そうそう、この感じだよー(何が)
なお、写真がぶれがちなのは、昂奮のあまり手が震えていたからです。






肉体美




イニシエーション





お庭の時点で既にてんしょんが振り切るほど昂奮してしまいましたが、ここはまだほんの入り口。ここから山道を登っていきます。
山道は、晴れなら何てことないですが、ぬかるむとなかなか厄介そうな道でした。この日は曇天でありましたが、雨が降らんでよかったことです。

山道の端々には、あまたおはする仏たち。なんちうか、アニミズム的な思想を感じます。岡本太郎のばったもんめいた作品もあり。。







首のとれた像も。




これもちょっぴり太郎感?







少し山道を登ったところにひとつ、お堂があります。連れが戸を開けて入ってゆき、ええっ、入るの!?と困惑。
それは、水子供養堂でありました。
水子供養は、このお寺のメイン(?)のひとつらしく、公式サイトにも書かれています。
壁面にびっしりと規則正しく並べられた緑の仏像には、腹に4桁の数字で番号が印字されており、息が詰まるような感覚を覚えました。水子供養堂の常として玩具や子供の服も供えられているのですが、玩具も服も3歳くらいの子供を想定したものが多いのが、なにかふしぎでありますね。

何か重い気分になりお堂を出、再び山道を登ります。
だが、しばらく歩くと今度は、そんな重い気分を吹き飛ばすワンダースペースが!!

なんだ!? この丘は!!
(注: ますます昂奮で写真がぶれてます)



ゾウさん、ライオンさん、観音像、の下に洞窟………これはもう、押しも押されぬパラダイス感!! (今更ですが、本稿での「パラダイス」は例によって桂小枝的意味における用法です。)


動物園か?




観音さま、そして洞穴。今にも崩れそうで恐怖。




ゾウさんの背後には、三島由紀夫に似た赤い人。




に、西田幾多郎先生!? こんなところでお会いするなんて……!?





あああ…… もう何が起こっているのか、私の小さな脳では処理しきれない!
なお写真には写っていませんがこの横にも洞窟があり、洞窟内は、空海最澄親鸞法然etc などの像がひしめき、歴史の教科書みたいになってました。
宗教的表象というのは、ある種の情熱を注ぐツールとして恰好のものでありますが、かといってパラダイサーは宗教を意識的に「利用」しているわけでなく、ちゃんと信仰をもっている、という点がパラダイスのパラダイス性であるなあ、と改めて感じました。

さてこの丘から順路に沿って、隆明殿なる建物へ入ってゆきます。
建物の入り口には、馬にまたがる全裸の男女像…… その後方に、見るからにがっかりなハリボテの龍があるのも見えますでしょうか? かつては何かに使われていたのかなあ。




隆明殿には、「観音」と書かれた観音を初め、巨大な義経像や動物像などが展示されておりました。
此処で、初代院主の紹介と写真も見ることができました。初代は明治24年生まれ、東京美術学校に学んだ彫刻家で、戦後に「世界平和と人類繁栄」を祈願し、ハニベを興したそうです。こういってはなんですが、パラダイサーらしいご相貌でした。





う、うん……。




牛さん




隆明殿、やはり統一性は皆無ですが、干支コーナー、猫の置物コレクションコーナーはちょっとかわいくてなごみました。
しかし、束の間なごんだところで目前に現れた 「この先洞窟入り口」 の不穏な文字列が、再びわれわれを緊張させるのであった………!!





(次回、洞窟編に続く)