塔本シスコ展 シスコ・パラダイスを観に行ったよ!の巻

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ちょっと前の話になりますが、9月頭に「塔本シスコ展 シスコ・パラダイス」滋賀県立美術館で観ることができました!

途中までやってたの知らんくて、これは絶対観たい!と思いつつ夏中バタバタしてなかなか行けずであったので、無事会期中に行くことができて嬉しかったです。

塔元シスコという画家は、一般的にはあまり有名ではないのかもしれません。私は2009年に京都造形芸術大学(今は名前変わったんでしたっけ)で観た『マイ・アートフル・ライフ』という小さな展示が初めての出遭いでした。そのときの衝撃、「うわーーー!!」という幸せな感じは忘れません。当ブログにも感想を書いていました。

 


この頃は、創造と病理、だとか、単為生殖的エネルギーと両性生殖的規範、だとかいうものが自分のテーマであったので(いや、今もそうかもしれんのですが)、それに関連して思うところがいろいろあったようで、無駄にエモくて読みづらい文章になっておりますが(昔の自分の文章は今読むと無駄にエモいのでやめてほしいです――今の文章も後から読み返せばそう感じるのでしょう)、しかしえらく幸せな衝撃を受けたことは伝わるかと思います。

 

シスコさんは、大正2年、熊本の生まれ。40代のとき、夫を亡くし、自身も脳溢血で倒れたのち、リハビリを兼ねて石を掘り始めます。本格的に油絵を描き始めたのは50代(上の記事では「70歳を過ぎてから花開いた」としていますが)。画家を目指していた長男の道具を使って、見様見真似で描き始めたのが初めだったそうです。

シスコさんの絵は、wikiでは「素朴派」とされています。専門的な美術教育を受けたことがないという点では、アール・ブリュットアウトサイダー・アートの文脈で考えることもできるでしょう。遠近法が用いられない画面や、画と文字が一体化して作品を形成している点などは、アール・ブリュットと呼ばれる作品によくある特徴と一致していますし、何よりも、模倣や既成のスタイルではなくおそらく自らのうちから湧き上がるものによって描いている、という点がまさにデュビュッフェが言うたそれ。しかし「アール・ブリュット」って概念は、現代におけるその意義とかあれこれ考え出すと使いづらいところもあって、そんなことを考えてたら、今回の図録で解説を書いてはる橋本善八さんの文章――シスコさんを「画家」と呼ぶのは違和感があるという話から始まる文章なのですが――の中に、「もし、画家という言葉で彼女を形容しないとすれば、画人という言葉しか、私には思い当たりません」という一節があって、ああ、「画人」! なるほど、ぴったりや~ と思いました。

 

シスコさんの絵は、色彩もきれいで楽しくてまさに「パラダイス」という感じで、今回「パラダイス」ってタイトルをつけはった人はパラダイサーが作るあのパラダイスのことも念頭にあったんかな? と思うのですが、パラダイサーが作るパラダイスと同じく、ひとつの小宇宙を成して観る者を包んでくれます。展示室の中でみんなパラダイスに包まれているようで、ハッピーな空間でした。

私は、「造幣局の桜」の前に来て、涙が流れてしまいました(最近絵とか観るとすぐ泣く)。あんまり桜のピンクが鮮やかで。写真撮影OKだったので写真を撮りましたが、写真だとあの色彩が充分に出ませんのう。実物はこの何倍も華やかな、目に飛び込んでくるようなピンクなのです。

 

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この絵は、以前にも観て好きになった絵なのですが、桜の中に白いウサギたちがいます。造幣局には実際はウサギはいないんですが、これは愉しい気持ちを表しているのだという解説を以前に読んだ気がします。いいなあ~~。シスコさんは50代の後半から大阪の枚方市に住んでいて(今回その団地や周辺の様子のパネルもあって面白かった!)、造幣局をはじめとして知ったところがちょくちょく描かれているのも嬉しいな。

 

他に、今回ぐっときたのんは、子供時代の思い出が描かれた絵たちです。最近自分も次第に子供時代が遠いものになってきたからか、それを作品の形で残そうとする作業を見るとそれだけでも感動してしまいます。そして、好きなものや思い出の場所や人たちを再現しようとするシスコさんの作品は、その懸命な気持ちがあふれていて、意地悪な気持ちがぜんぜん感じられないのが、なんしか最近の表現でいうと「尊い」と感じます。

その懸命な気持ちを無垢とか純粋とかわれわれは感じるわけですが、しかしそれは技法が無いとか独創性が無いとかいうこととは違って、たとえば上のウサギが描き込まれている工夫もそうだけど、子供時代の自分と現在の自分の孫たちが時を越えて一緒に描かれてる絵とか、「あ、絵ってそんなんありなんや!」と驚かされました。自由で、かつそこに衒いがないのんがええな~と思いました。また、苦労することや悲しいことがあっても、心の奥のほうに子供時代の記憶が新鮮できれいなまま保存されていて、それをいつでも取り出して慈しめるタイプの人やったんかな、と一連の作品を観ながら思いました。

 

作品はほぼ時系列で並べられて、完成時の作者の年齢が添えられていたのですが、一枚一枚の前で「ほー!●●歳のときか!」「●●歳か! えらいもんやなあ!」と感嘆してるおじいさんがおられて面白かったです。おじいさん自身がおいくつか分かりませんが、シスコさんの絵に元気づけられはったんですかね。そういえば、私は、最初に観たとき(2009年なので13年前ですね)はまだ30歳になるかならんかくらいやったんで、50代から創作を始めたという話を「マジか!すげえ!」と思ったのでしたが、今では、ぜんぜんアリやな! と思います。

 

 

いろいろお写真撮ったんですがちょっとだけ。

 

 

小動物とか植物を描いた絵もどれもよかったです。綺麗! シスコさんは本格的に絵を始める以前から、動物や植物を育ててスケッチするのが好きだったそうです。

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立体物もいろいろありました。美術館のお庭を背景に、お人形。
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晩年の作品。88歳のときに認知症を発症してからもシスコさんは描き続けていたそうです。大きな作品は少なくなりますが、色彩はますます鮮やかで、サイケデリックでもあります。(額も素敵。)

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図録買いました! 嬉しい。しかも国書刊行会さんや~~。

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買うてきたポストカードを玄関に飾ったよ。出掛けるとき見たら元気出るかな~と思い。隣は「犬のよさ展」で買ったやつです!

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ところで滋賀県立美術館は、車がなければ瀬田駅からバスで行かねばならず若干不便なのですが(一度歩いていったけどめちゃ遠かった)、私はバスが苦手なので、今回は石山駅でレンタサイコーを借りてチャリで行きました! 暑かったけど、このへんは一度走ってみたかった道でもあるし楽しかった~~。

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旧東海道沿い。厳めしい蔵だけど注意書きがフレンドリー。
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理容室のよさ。
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KOBANのよさ。
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琵琶湖へつながる瀬田川。9月初めだけどまだプールに人がいました。
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