宇野のチヌに会った(18切符旅行記)

毎シーズン、青春18きっぷを購入するものの、ほぼ通勤にしか使ってない!!
これでは「青春」じゃない!「18」ですらない! ただの「きっぷ」である。

ということで、休日が合った友人ナメと、本来の使い方で18きっぷを使おう企画をすることに。
本来の使い方とは、どこでもいいから、行けるところまで行ってみる、という使い方。
昼前に京都を出て、とりあえず東海道本線下りへ乗り込み(寒かったから)、さてどこまで行けるかな、と観光パンフを眺めたところで、こんな写真を発見。





「宇野」という知らない地名に、なんか色とりどりのきれいな魚のちいさな写真。「宇野のチヌ」と書かれています。
宇野……どこだ? これを活用して調べてみると、岡山の海に面した町らしい。
なんかよう分からんけどこのカラフルなやつを最終目的地にしよう!と決まる。ちょう適当です。

そして適当旅が始まったのですが、
途中、姫路で降り、ツチブタを見たりツチブタを見たり買い食いしたり要らん買い物したりツチブタを見たりしてしまい、この時点で既に15時。更に、姫路−岡山間の接続の悪さに驚愕。
京都−姫路間は、15分に一度の新快速がさくさく出ているのですが、姫路−岡山間は本数も少なく、またひと駅とひと駅の間が長いのですよね。乗り換えに失敗すると、なんもない田舎の駅(失礼)に延々と留め置かれたりも。
とはいえ電車は延々と自然の中を走り、眺めはいいし、普段姫路から西へ来ることはないので、知らない駅ばかりで新鮮です。
「就実・西川原」という駅で 「駅名にナカグロが入ってるなんてめずらしいなー」 と言うと、


「ナカグロ!? あの 『・』 って 『ナカグロ』 って言うん!? ナカグロなんて初めて聞いたっ!! ナカグロ……ナカグロ……ひひひ……!!!」


とナメちゃんまさかのナカグロで大盛り上がり。
旅は、何で盛り上がるか分かりません。


そしてなんやかんやで岡山着。
ここから宇野までは、宇野線というローカル線に乗って終点まで行けばよいようです。
宇野線は、一時間に1、2本しかないマイナー路線です。(いま検索したら、「宇野盲腸線という表現を見つけました。) ですが、ちょうどその数少ない宇野線が発車するところだった、これはラッキー! と思いきや、ナメちゃんまさかの 「ちょっとトイレ」
トイレから戻ってきたのは発車1分前!
急いでホームへ降りるも、宇野線ホームはなぜかめっちゃ奥まったところにあり、17時、全速力で走ってなんとか宇野線乗車。
旅は、何で走る羽目になるか分かりません。


乗ってしまえば、宇野線盲腸線というだけあり、終点に近づくにつれ乗客は減り、のどかな光景が広がります。乳的な建造物など見ながら、旅気分です。


一時間揺られ、やっと終点宇野に到着!






18時過ぎ、空はやや深い藍に染まりつつもまだ日のある時刻。
そして海の気配。海のない街に住んでいるので、海を見るとそれだけで遠くへ来た気になります。
そして…… 駅前にファッションセンターしまむらがある!!
しまむらや!! しまむらがあるっ!」
謎の盛り上がりを見せるわれわれ。





だがわたしたちはしまむらに服買いにきたのではない、宇野のチヌに会いにきたのである。
駅員さんに 「チヌってどこですか」 と尋ねに。すると、駅員さんは言ったのでした。

「ああ、あのゴミ?」

ゴミ!??

ゴミってどういうことだ!? と思いつつも、駅員さんは親切に場所を教えてくれたので、とりあえずそれにしたがって進むことに。
ところが、駅を出たところにいきなりトラップが。駅前に、すてきなオブジェがあったのです!






海のいきものたちがつらなってゐる!!





カメさん、ヒトデさん、ジュゴンさん、なんかのったりしたトドのようなもの、などなど、わたしの好きないきものたちが天に伸びています。波乗りしてるヒトもいますね。
さきっちょにカラスさん(本物)がとまっています。





さらに、このオブジェの周りにも点々と海のいきものたちが配置されており、しかもどれもこれも妙にリアルで完成度が高い!


ぽってりとした何か。ノコギリザメ?




ジュゴンさん。体型とシワがリアル!







いきものたちをひととおり愛で、写真撮りまくってからやっとチヌのもとへ。
チヌは港にいるらしいので、港へ急ぎます。
「チヌー、チヌー、やっとここまで来たよ! ほんまにチヌに会えるとは思わんかったー!」
と感慨に浸るわれわれ。よっぽど逢いたかったようだが、よう考えたら出掛けにてきとうに決めた目的地である。

港へ近づくと、お船の隣に魚のかたちのものが!



おお。どうもあれがチヌらしい。
そして、近づいてみてわれわれは、駅員さんが「ゴミ」と呼んだわけが分かったのでした。




ポリバケツの蓋、汚れたボール、壊れた傘…… この大きな魚は、ゴミの寄せ集めて成っていたのでした。
後で調べたところによると、宇野のチヌは、淀川テクニックというアートユニットの作品で、淀川に漂着したゴミを集めて作ったものであるとのことです。
カラフルに見えたのもそれぞれのゴミの色であり、着色したわけではなく、もともとの同系統の色のゴミがまとめられているのでした。
チヌの全身をぐるりと回って見てみると、実にさまざまな、ゴミ。


顔は古びた革ジャンを着ています。口の下には靴の泥落としマット(正式名称知らない)。




どっかの物干し台からとばされたのであろうか、洗濯干し。ピングーのぬいぐるみ。




ヒレは傘やバット。




肛門?




如雨露、洗面器、うさぎ、ドラえもん……




物干しの内側に… なんだっけこのキャラ。




パイロン、スリッパ、アンパンマン、Peace。




目の円盤はなんだろう? 左下には犬看板が埋め込まれています。





なるほど、こういうものだったのか… 。ただのカラフルなオブジェかと思ってたのに、これはずっと見ていても飽きない。
何かに似てると思ったら、吉田神社のお焚き上げ、人形供養でした。
ゴミだけどゴミではない、ゴミではないがゴミである、それぞれの思いや歴史が詰まっているであろうモノの集積、という意味で。そしてそれが巨大な魚のかたちに編まれているわけです。
そしてわたしはそういうものを見るのが好きなのだ。絵馬とか、落書きとかもそーだよね。
で、モウその集積っぷりに圧倒されてしまったのでした。
海辺という場所もよいのでしょうね。 (そーいや、対象アーが漂い着くリトラルなんちゃらかんちゃらいう話を最近読んだのでした。)
眺めているうちに日は落ちて、暗くなるとチヌはライトアップされ、照らされたゴミが内臓のように見えます。





てきとーに決めた目的地であったが、観に来てよかった、チヌ。
暮れ泥む港に光るチヌを残し、われわれはチヌのもとを去ったのでした。





この後、また宇野線で岡山まで戻り、岡山で晩飯を堪能し、「わー! 今日は充実してたなあ! 乗り換えも上手く行ったし!」 と言うたところではっと気付いたことには、われわれは岡山−姫路間のあの接続の悪さをすっかり失念していたのであり、京都に着いたのは0時過ぎ、京都駅からチャリで帰宅すべくチャリ置き場に向かうと、こんなことになっていたのであった。





最後の最後で………!!