読書の秋と、げんげの思ひ出



読書の秋です。
…などと普段べつに意識することもないのですが、今年は、ふと読み返したくなった本が二冊ありました。

一冊は、深沢七郎の『みちのくの人形たち』(中公文庫)。
深沢七郎は、大学に入った年に人から薦められて読み、すげー!と思ったのでした。
シチローといえば「楢山節考」あと「風流夢譚」が(或る意味)有名ですが、わたしはこの、後期の短編集が好き。

深沢七郎の小説は、音楽的な効果があって、同じ音楽を何度も聴くように、何度も読み返すことができます。(作者がもともとミュージックの人であることもあるのでしょう。)
音楽的な効果というのは、たとえば音楽を聴いていて、なんでかわからんがその音がじゃーんとなってぐらぐらとなってなぜか涙、ということがあるではないですか、そういうことです。
この短編集では特に、「秘戯」のラスト近くにそれを感じます。
なんかわからんのですが、ここでいつも、音がじゃーんとなって涙、みたいな状態になるのです。
あと、「和人のユーカラ」がとても好きで、これも最初に読んだとき、じゃーんと鳴ってがーんとなりました。
そういうことか!と。
今回は、昨今話題の尖閣ショトウのことなど思い出しながら読みました。べつに、読んだとて、直接政治問題の解決につながるわけではないが、しかしそこに外から異なった視点を導入してくれる……とかいうと陳腐だしなんか決定的に違うな……異なったじゃーんを鳴らしてくれる……といっておくしかないか……、文学とはそういったものであって欲しいと思います。
ていうか、わたしにとってそういったものであるというか、そういったときにじゃーんが鳴るということなのだが。

「文学とは」とか自分が言い出すと結局なんか不毛な話になりそうでいやなのですが、最近、「文学には興味がない」という人を相手に文学の話をせねばならない機会があり、それで特に「文学とは」的なことを考えてしまうんかもしれません。
なお、深沢七郎でいちばん「うわあっ!」と思った小説は「盆栽老人とその周辺」であることも付け加えておきます。


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読み返したくなったもう一冊は、岩波文庫の、泉鏡花の初期作品集。
深刻小説とか観念小説とか呼ばれていた時期の短編を集めたもので、『外科室・海城発電』というタイトルで出ていますが、われわれの間では、「鏡花鬱短編集」という呼び名で通用しています。

凱旋の乱痴気の中で踏み潰されていく女、剣をとって闘うことのない男児、など、徹底して、力をもたない者に寄り添ったまなざしは、当時こんな小説を書けた男の人がいたんやなあと驚嘆しますが、しかしやはり、まずはあまりにあんまりな鬱っぷりがこの作品集の醍醐味であると思います。
中でも「琵琶伝」の破壊力(鬱力)は一級です。ツウチャンツウチャン。
「貴下は私を知りますまい!」でおなじみの名作、「外科室」(昔これで「恋愛論」のレポート書いた)も収録されています。


…と書いているうちに他の鏡花作品も読み返したくなってきました。
上で、文学の音楽的効果ということを書きましたが、鏡花の作品にもそれを感じます。というか、鏡花作品も実際に演劇化されていたり、そもそも音楽に近いところにあるのですが。
特に、じゃーん、と鳴ったのは、『婦系図』でした。(深沢七郎もどこかでこの作品に言及&賞賛していたような気がします。記憶違いかもですが。)
あと、文庫化されていないかもですが、なんじゃこれ!度では「酸漿」がおすすめです。楳図風にいうと、ウワーッ!ウワーッウワーッ!(三回)という感じでしょうか。


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余談ですが、鏡花といえば、以前金沢に行った際、鏡花記念館に行きました。
……しかし記念館のことはほとんど覚えていません。
ので、周辺の写真を載せておきます。


「滝の白糸」(あるいは「義血侠血」……この作品も鬱短編集に入っています。師の尾崎紅葉にラストを修正されたらしいですが、修正前の結末が激鬱)の、白糸像。
美しいのですが、ボタンを押すと水芸を演じてくださって、それが(言っちゃ悪いが)マヌケでした。




金沢の、祇園のようなところ(地名忘れた)。「照葉」という名のお店を発見。おそらく「照葉狂言」由来でしょう。




うさぎさんを抱いた鏡花像。かわいい。
うさぎは鏡花の向かい干支で、うさぎグッズをコレクションしていたそーです。




余談ですが、金沢は、いたるところに無料駐輪所があって、良い街でした。
自転車イジメの自転車行政を行なっている京都市にも見習ってほしいよう。
小京都と呼ばれるところの多くが、オリジナル京都よりもずっときれいで、ずっとがんばっているように思います。
さらに余談ですが、金沢では、皆で魚の店に行き、げんげ なる魚(深海魚?)をいただきました。
ものすごくぬるぬるしていました。実物(ていうか生きてる姿)もぬるぬるしていました。
余談ながら、ぬるぬるブログとしてはこれをヌルーするわけにはいけないので、これも載せておきます。(下のはげんげぢゃないかも。)











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