学会:感想と補足

【本日のひとこと】
切手は唾液派です。
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おはよございます。
名古屋行きについては先日ちょっと書いたのですが、日本病跡(びょーせき)学会のパネル・ディスカッションで発表させていただきました……というようなことも書いてみようかとおもいます。
このブログは、半・非匿名ブログなの。


パネルのお題は「いま/漫画の表層、漫画の深層」ということで、漫画についてなんでも、ということであったので、わたしは、楳図かずおについてはっぴょうさせていただきました。
「オタク学会」とか揶揄されることもある学会ですが、漫画をテーマにしたシンポヂウム的なものというのは、初めてだそうです。
以前から、楳図の『14歳』に出てくる両性具有的な表象群について、これはなんなんだ・いつかこれについてゆっくり考えてみたいのう、と思うてたとこでしたので、ちょうどよい機会をいただいたわけでした。

理想としては、いきなりフロイトの幼児期性理論を援用するんでなく(注:自分としては「フロイトで楳図を読んだ」つもりでなく「楳図でフロイトが分かった」んですが)、モット、楳図さんの過去作品やご本人の発言などをゆっくりゆっくり拾いながら考えられればよかったなア、と思うておりますが、発表後、いろんな人から、「『14歳』読みたくなりました」といわれたのがうれしいことでありました。何せ、(学会なのにこんなことを言うのもアレなんですが)「ウメズってすげー!!」というのがいちばん言いたかったことであったので……。
はっぴょうは、はくりょくがあったよ、などと言っていただけましたが、それはおそらく、わたしの議論のゆえでなく、ひとえに楳図漫画の力、楳図イムパクトであったと言えましょう…。


ところでひとつ、楳図漫画における「場違いさ」みたいなものについて喋ろうと思って喋り忘れてしまったので、此処で捕捉をば。

最後に、司会の香山先生から、楳図さんのような特異な漫画家がメジャーでこれほど売れたのはなぜだと思うか?(大意)というようなご質問をいただき、
・誰もが共通して持ってるような生理的にうわあっっとなる部分をついてくるからでは
・怖いもの見たさでは
という(当たり前っちゃあ当たり前の)二点と
・楳図漫画の或る種の幼児期性が、われわれに潜在するファンタジーを刺激するんでは
という私見を挙げたんですが、ひとつ、楳図漫画における「場違いさ」みたいなものの面白さ、という大事な点を挙げ忘れておりました。
場違いさ、という表現が適当か分かりませんが、或る種のアンバランスさ、フリーキーな感じ、といえばお分かりいただけるでしょうか。
楳図漫画を読むときに、わたしがいちばん気にかかりつつ、いちばん魅力に感じるんがここなのです。


たとえば場違いな台詞。
そこでそうは言わんやろ!的な。でも、作者の中ではたぶん自然なのだと思われる。

『14歳』だと、地球の植物が全部枯れるとかありえない異常気象が起こってものすごい緊迫の場面なのに、「ところでおたくの息子さんお元気ですか」とか。
神の左手悪魔の右手』でも、人体から大量の泥や人骨が出てきたり、ふつうなら卒倒するようなありえない状況になってんのに、大真面目に「安静にしてなきゃだめじゃないか!」とか。
シチュエーションのありえなさに比して、台詞が妙に定型的で常識的なのです。
皆、「あっ」(目と口を最大限に開いて)と驚きつつも、一定以上にはけっして驚愕しない。どこか、クール。
この種の奇妙さに魅せられているのはおそらくわたしだけでなくて、ネットでのファンの語らいなど見ていると、この奇妙さこそが楳図さんの持ち味として愛されているようです。「ネタ」的に楽しまれたりもしていて、楳図漫画のこうした部分を意図的に拡大-パロディ化するような芸風の漫画家さんもおられすよね。
でも楳図作品では、それがまったく生真面目に発されているようなのです。
そして、「それはなかろう!」というような無茶な設定(例:『洗礼』のオチ)も、この生真面目さによって押し切られてしまう(むりやり納得させられる)感があります。

台詞については他に、「〜したのだっ」という書き言葉調が有名ですが、そう、どこか大時代的なのですよね。
乱暴な台詞でさえ、大時代的すぎるがために妙に生真面目に見えます。例:「行った行ったこんなシケた所はグッバイだぜーっ!!」とか……。
この生真面目さが、作品自体の或いは絵の斬新さや熱さの中で浮き上がり、場違いな効果を生んでいるのです。
台詞だけでなくて、たとえば先輩U氏はたしか、作品のスピードやテンションの高さにもかかわらず登場人物たちの動きが制止しているように見える、というようなアンバランスを指摘されていました。


さて、こうした「場違いさ」は、楳図さんはまったく天然でやってしまっているのであろうなア、と理解していたのですが、『まことちゃん』などのギャグものを読んで、んん? と混乱してしまいました。
そこでは、この種の場違いさが、明らかに読者を笑わせる目的で意図的に使われていたのです。
ということは、ええっ、楳図先生はもしやあれも分かってやっていたのかっ?と思ったり。このへんのふしぎさが、目下わたしの中でいちばん興味深いところではあります。(ちなみに、『14歳』で唯一、明らかに分かってやっていると思われるのは、「オムツ野郎!」です。)


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楳図話ばかりになってしまひましたが、このパネルに誘っていただいてよかったこととしては、長滝先生が言及された『最強伝説黒沢』(福本伸行)に出会えたこと。
読んだことなくて(福本伸行ってあんまり興味なかったので)、学会のため直前に漫画喫茶で読破したのですが、これがよかった!
全体の、盛り上がったり落としたりの起伏が上手いのは言うまでもなく。たまらんです。
最後に守るものが、若いわけでも美しいわけでも特に気立てのよいわけでもないおばあさん、というところにも、ぐぐっときたのでした。
そこで黒沢が、「弱きを守り、損して笑ってるのが男だろ!」というようなことを言うんですが、そこにシビれ(注:わたしはけっこうすぐにシビれたりかぶれたりするのだ)、「弱いものを守って損して笑うのが男なら、あたしも男になるよ……ッ!!」と胸を熱くしたのでした。そして、香山先生が、ジェンダーの問題に言及なすったとき、この自分の感慨を思い出したり、してたんでした。

他にもなんかいろいろ後から思ったことはありますがまたの機会に。。
ざわ…ざわ…

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◎おまけ1
当日の服装。楳図先生仕様で気合を入れました(足元のみ)。





◎おまけ2
名古屋で宿泊した旅館のでんわ。フロントの番号が真悟です。
思わずテッペンカラトビウツりそうになりました。