りぼん今昔:『砂の城』と『グッドモーニングコール』

今日はわたしの友人にうれしい知らせのあった日でした。
さて、今日こそは「レビュー」機能を用いて、最近読んだ漫画を紹介します。


商品がありません。

いまさらなんですが、一条ゆかり砂の城を読みました。
1977年から81年まで『りぼん』に連載されていたということですが、じぶんの中の『りぼん』イメージ(低年齢向け恋愛漫画のイメージでした)とのギャップに吃驚です。

フランスを舞台にした身分違いの恋に始まり、これでもかとばかりの不幸の連続です。
そして、ヒロインはじめ作中の女性たちがやたら絶叫するのが小気味良いです。彼女らは、何かショックなこと(主に色恋沙汰に関して)が起きるたびに、卒倒したり発狂したり記憶喪失になったり、刺したり刺されたりとにぎやかです。
ヒステリーな主人公を見守る役どころであるはずの、いつも冷静な親友も、自分が失恋したときは素手でガラスを叩き割りこぶしを血まみれに……。

しかしそのたびに、恋人がつきっきりで看病してくれるとか、イケメン精神科医が旅行に連れ出してくれて励ましてくれるとか、いろいろいいことが起きるのがツボです。作中で精神科医も言っているとおり、どいつもこいつも疾病利得野郎ばかりです。
無意識をいつも即座に言語化するオタク文化は、萌えの対象としての病う女子をヤンデレという語で表しましたが、女の子側の病う自分への自己愛というのも案外厄介なものであり、この作品の小気味よさはその自己愛を存分に満たしてくれる点でありましょう。


なお、わたしの好きな台詞は、最も作者自身が投影されていると思われる粋なマダムが神経症的ヒロインに示す人生の指標。


人生を楽しみなさいな、ナタリー
笑いとばして生きるのが一番の美容ですわよ



ええこと言いますね。


_________


さて一方。
比較的最近の少女漫画を、いもうとから借りて読みました。
同じく『りぼん』に、1997年から2002年まで連載された『グッドモーニング・コール』。
ちょうど『砂の城』の20年後なのですね。

連載が始まった当初、なんだかぱっとせん話やなー と思っていたところ、いつのまにか『りぼん』の最人気連載になっていて驚きました。
ぽやーっとした女の子が、かっこよくて人気者の男の子と事情あって突然一緒に暮らす羽目になる、という、少女漫画定番の「いきなり同棲モノ」(註)なのですが、終始大事件といえるようなことは一切起こらず、バーゲンで何を色違いで買ったとかいうお買い物の話と、雨の日は髪がまとまらないとかまとまるとか、そんな日常ネタが延々と続きます。
ショックを受けることがあっても、誰もガラスを素手で割ることもなく、ギャグタッチの絵で「がーん」とか言ってすぐに解決します。

おたけん。の論によりますと、昨今オタク業界では、主人公が大きな敵と戦うといったような大きな物語が流行らなくなり、萌えキャラとのほのぼのとした終わりなき日常(実際日常はいつかは終わるので終わりなき日常とは本当は究極のファンタジーであるのだが)を描いたものが量産されているとのことですが、少女漫画界にもそのような変化があったのでしょーか。
と少し思わないでもないですが、まアたった二作品で少女漫画の変遷を語るのは乱暴ですよね。現に『NANA』は絶賛過呼吸中、『ライフ』も絶賛リスカ中ですし。
また終わりなき日常もきっと小さな病々によって支えられているのであるからには。



註)
ちなみに、こうしたいくつかの少女漫画定番パタンの中で、わたしがもっとも気になっているのは、「いきなり男子校潜入モノ」です。なぜか事情あって(たいていありえない素っ頓狂な事情)、女の子が男装して(しない場合もアリ)男子校に通うことになる(たいてい全寮制)というやつです。そのうち「男子校潜入モノ研究」をしたいものです。男子校潜入データベースをつくりましょう。科研費で。