テーマを決めてチェンソの話をする(6)生姜焼き

ついにわれらのチェンソーマン最終巻(第一部)が発売されてしまいましたね。

周囲には、本誌でなく単行本で読む派の友人が多かったのでネタバレを自重してまいりましたが、これでやっと「生姜焼き!」とか「ヤバジュース!」とか言いたい放題で喜ばしいことです。表紙もかっこいいですな。背景のタイルは、アレをアレした風呂のタイルなんだろうな、と勝手に思っております。

以下、11巻のアツかったところを書いてゆきます。

 

 

 

■ 超パワー

まずなんといってもアツいのは、パワーちゃん復活回でありましょう。

マキマさんの扉絵で怖がらせておいて、頁をめくるとパワーちゃんがいたときは感動しました。連載当時、それまで長々と混沌展開が続いてきたのが、ここで一気に「おれたちの好きなチェンソーマン」が戻ってきた!て感じでした。同時に、第一話以来の登場であるポチタも超かわいい。

続く「パワー・パワー・パワー」回は、多くの読者のテンションがブチ上がった回でしょう。私も、ガチで深夜に叫んでしまい(なぜ深夜かというと連載中は0時のアプリ更新と同時にジャンプを読んでいたから)、家人が風呂から半裸で様子を見にきました。まさかこの作品でこんな美しいものを見せられるとは思わず、「これでもう金玉蹴り大会に帰れなくても生きていける……」と感涙しました。

 

 

 

■ ステーキ&セックス&チェンソー

 

その感涙回の次が巻頭カラー回であったので、このテンションで行くんだな、このまま努力&友情&勝利ルートになるのかな? と思いきや、全然巻頭らしくない、重く静かな回だったのもまたびっくり。こういうお約束の破り方が実に気持ちいい作品でしたね。これまでありそうでなかった主人公とコベニちゃんとの対話の中で、それまでうっすら想像される程度であったコベニちゃんの家庭環境も垣間見え、しかしそれについてはそれ以上触れない、というのもこの作品らしいところです(いにしえのジャンプ漫画であればここから「死闘!コベニvs毒親」が8か月くらい続く)。

そして更に混乱したのはその次号。まさか重く静かな前回の問答から、「毎日ステーキを食べたい」「たくさんセックスしたい」という心の叫びに至るとは、誰が予想し得たでしょうか。ここ、前回の問答から急に断絶が起きたような感じもするんですが、しかし欲望の肯定というものはそもそも何らかの断絶の引き受けであるのかもしれませんなあ。ここで主人公が、己の欲望を引き受けた上で「チェンソーマンになる」決意をするのは、「ファイアパンチになって!」という他者の期待の末にファイアパンチになる主人公を描いた前作との好対照であるなあと思いました。デンジは、これまで読んだ少年漫画(そんなには読んでないけど)の中で一番好きかもしれません。

 

 

 

 

■ そして料理漫画に

ラスト数回はなんといってもマキマさんの美しさが際立っていました。謎の「殴り合おう」のお誘いから心臓奪取までの一連は舞踊のようで、無音でありながらBGMが聴こえるようで美しい画ですねえ(映像化するなら、ちょっと荘厳な三拍子の音楽、あるいはミッシェルの「フリー・デビル・ジャム」を流したい)。

「こんな味」回の、吸い馴れない煙草を嗜む姿も、戦利品に頬を寄せる姿も、それまでで一番かわいいマキマさんでした! まさかその後生姜焼きになるとは。

 

 

実は、この回、発売される前に早バレを踏んでしまい(※今回人生初ジャンプを定期購読したことで「早バレ」と呼ばれる行為が存在し忌み嫌われていることを知りました)、デンジが料理をしている図がチラリと見えたので、「ん? 最終回目前にして日常回なのかな? えらく地味な絵面だなあ」と思っていたんですよね。まさかそんな生姜焼きだと思いませんでした。「キラー・ビーチ」ですね。

この展開にまたもテンションブチ上がった読者たちが一斉に生姜焼きを食い始め、ツイッターで「生姜焼き」がトレンドになったのも、トーテム饗宴って感じで最高でした。こんな野蛮なSNSはワニ殺し以来でしたね!

 

私が、好きだな~と思った点は、(多くの親殺しの物語がそうであるように)愛と憎しみの両価性の果ての一体化で終わるのでなくて、あくまで愛と合理性の物語として描かれていたところです。思えばデンジは最初からマキマさんを「怖い女」と評していたし、でも嫌いになれなかったんですよね。「それはそれとして好きです、でも食います」という合理的な感情の切り分け方がイイ! デンジはもう少し長く見ていたい主人公であるので、ラストで第二部が予告されたのも嬉しい。

 

また、5巻の映画デート回が大好きなので、それが最終回でほんのり回収されたのもよかったです。人が抱き合う場面が映し出されたスクリーンを前に、二人がそれぞれ別の方向を向きつつも涙している場面が印象的でしたが、デンジが涙を流したのは、誰かに抱きしめてもらいたかった心臓のポチタが泣いていたんだね。それはまた、支配の悪魔のひそかな願いでもあったんだね。相容れなんだものたちが実は同じ孤独を抱えていたことが分かり、ますます映画デート回が好きになりました。

 

しかし最終回はなんといっても、「そんなことにカラーページを使うんだ……!」という点が最大によかったですね。知らん人が見たら料理漫画かと思ったことでしょう。下は、もちろん我が家でも作った生姜焼きです。

 

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