夏の思ひ出――落武者、ママチャリで岐阜県博物館への道
岐阜県博物館というところで、「奇なるものへの挑戦――明治大正/異端の科学」なる展示が催されていると知り、行ってみたいなあと思っていたのです。
「明治大正期、急激な近代化により科学への関心が芽生える一方、不可思議な現象が人々の興味をとらえ、心霊学や催眠術が千里眼(超能力)ブームを巻き起こし、精神療法・霊術が大流行しました。福来友吉や田中守平ら、知的好奇心をもって野心的に超常現象に挑んだ近代郷土の先人の足跡を発掘し、知られざる近代史をひも解きます」(岐阜県博物館サイトより)
とのことで、ちょうど、この時代の、精神医学や心理学の言説とアヤシゲなものとの関わりが気になっていたので。
そうだ、名古屋出張の際に岐阜に寄って展示を見ていこうかな!
……というようなことをふとフェイスブックに書いたところ、所長から、
「これは警告です。ありえなく行きづらい博物館です。できるなら車で行ってください。公共交通機関を使うと落武者になります」
という忠告が。
落武者!? どういうこと??
岐阜駅からの行き方を、ちょっと調べてみると、「岐阜バスで38分+徒歩20分」と書かれています。
徒歩20分……これがくせ者です。
よい季節の折ならともかく、夏場の徒歩20分は死ねる。
なるほど、たしかに公共交通機関を使うと落武者になりそうだ。
そして当日。私は岐阜駅で、100円のレンタサイクルを借りてチャリで行くことに。天才か! 地図アプリによると岐阜駅から博物館まではちょっと遠いけれど、「徒歩2時間47分」と出たので、チャリなら1時間チョイで着くであろう。
……しかしこの見通しが甘かったことをまもなく私は知るのでありました。
ちょっと分かりにくいけどこういう道のり。岐阜駅から東へひたすら国道156を走る寸法。
さて、13:00頃岐阜駅南口のレンタサイクル屋から出発!
お天気は曇りで、ときどき小雨がちらついておりました。晴れだったら気持ちよかったのになあ……と思いましたが、後で思えば小雨で有難かった! 晴れなら死んでた!
レンタサイクル屋でもらった岐阜観光マップに、博物館などカケラも載っていないことに若干の不安を覚えつつ東へGO。岐阜の観光地は、岐阜駅の北に固まっているようですが、岐阜県博物館はそこから大きく東へずれることとなります。
駅から少しキコキコ走ると、少し古びた商店などがあり、昔ながらの街という感じです。てんしょんが上がり、写真など撮影。また少し走ると大型店舗の並ぶ国道に出、大型コメダ珈琲店がそびえていたり。復路にはここでお茶しようかなーなどと考えながらキコキコ。この頃はまだ平和だった……。
156に出、地図によると、道なりに行けば博物館に着くようです。
おおっ、これは意外に早く着けるのでは?と思ったところ、次第に156は山道へ……。
そしてトンネル。山やん!!
岩戸トンネル。京都でいえば東山トンネルのような感じです。
実はトンネルに入る前に、一度険しい山道へ迷いこみそうになり「さすがにこれは違うやろ!」と引き返しています。道が分岐していると、私は地図を見てもどちらへ行ったものかまるで判断できなくなるので(地図を見る能力が根本的にない)、テキトーに道を選んでしまい、とんでもないところへ出てしまうことがままあるのです……。
岩戸トンネルを抜けると、しばらく広い道が続きチャリには快適。
京都でいえば、東山トンネルを抜けたところの山科のような感じでしょうか。
激しい上りの道続きで体温が上がっていたところへ、少し降り出した小雨がミストのようでむしろ気持ち良し。基本歩行者はいない道のようで、まったく人の姿を見かけませんでしたが、延々続く道路を、しばし気持ちよく走りました。この時点で14:00頃。
しかし、車のために作られている道路って、歩行者&自転車用の道はなんだか、つながっていると思われたところが途切れていたりとか、変な迂回を強いられたりとかの「連結詐欺」(c:ナメちゃん)の連続なのですよね。
156を道なりにゆけばよいだけのはずなのに、連結詐欺に遭いまくる中で私は知らず知らず国道から逸れてゆき、よく分からない農道に迷い込んでどんどん道から離れていったり、なぜか墓地の中を爆走していたり。。
気が付くと今度は違う国道に出て、なんか白亜のトンネルの中を走っておりました。
トンネル内函×ピクトという美味しいコラボ。このピクトは良い!
地図アプリのおかげでなんとか態勢を建て直し、「岩田東」という交差点でなんとか方向転換し156に再合流! おお、久しぶり、愛しい156よ。
度重なる連結詐欺により、この時点で既に予定の14時を大きく回っておりました。展示は16:30まで。急がねば。
というわけで写真を撮る余裕がなかったのですが、細くなって少しばかり店舗の増えた国道をまた延々走ります。荒野のコメダ珈琲店あり。
相変わらずひと気はなく、どうやら自転車屋なども見つからなそうなので、「ここでパンクでもしたらどうしよう……むりやり乗って帰るしかない!」とびくびくでした。
かなり走ったところで、目印となるバス停発見。やったーー!
しかし! ここからどう進んだものか見当もつかない。
地図によると次第に目的に近づいているようではありますが、それらしきものは見当たりません。博物館は「百年公園」というものの中にあるらしいのですが、公園らしきものは見当たらないし、普通そうした公共施設には案内表示があると思っていたけど何もない。途方にくれる……この時点で15時前。
そしてここが私の悪いところなのですが、こういうときこそ地図アプリと冷静に相談すればよいものを、見当もつけずにテキトーに走り出してしまったのでした。
そのおかげで、自分がどこにいるか分からない状態に!
(※ このダメな習性は私の行動パターン全般に渡って当てはまります。冷静に調べれば一回で済むことを、なぜか調べず失敗する、ややこしい仕事こそ確認しながらやればよいものをなぜか確認を怠る、人に聞けば分かることをなぜか尋ねず「きっとああなんだ……」と独り頭の中で突っ走る、など。明らかにフロイト的失錯行為と思われるのですが、なんの症状なんだ!?)
とにかくそれらしき方向に従って走ってみるも、広がるは大自然のみです。わああー大きい川だねえ。こんなところに公園があるのか!?
そこへ、何かこんもりとした鬱蒼としたものが表われました。もしやあれが……?
私は、「公園」という語から、何やら拓けたところを思い浮かべていたのですが、あのこんもりが百年公園か!! あの鬱蒼の中に博物館があるのか?
そうと分かればよし!とこんもりへ向かったものの、どうしてもそのこんもりに近づけないという事案が発生。近づいていくと思われる道を走っていたのに気が付けば遠ざかってゆく。こ……これは!! カフカの城案件!!
私は都会っ子育ちで、車も運転できないため電車で行ける範囲しか移動しないので、こうした田舎の車道のスケールの違いは、頭では予想できていても実際接すると途方にくれてしまうのです。歩行者用の道路がなかったり、道に迷っても道を訊く人も歩いてなかったり、お店もなかったり。
ついに「あの道や!こんもりに続いてる!」と見定め立入禁止と書かれたあぜ道に無理やり入っていったにも関わらずなぜかますます遠ざかり、誰もいない川の土手みたいなところに出てしまったりわあああー! 流石に、ほんまに「わああああー!」 と叫んだ。
公共交通機関で来なくても落武者だった!
こんもりには近づけぬままこんもりの周囲の誰もいない山道をひたすらぐるぐる周り続け、1時間近くが経過……博物館の入場は16時までです。そしてやっと私は、「博物館に電話する」という選択肢に思い至ったのでした。
自分がどこにいるかも分からないので道を訊くのも非常に申訳なく、また、「自転車で来ているのですが」と言うのが恥ずかしかったのですが、電話に出てくださった方の適切なアドヴァイスにより、16時前になんとか到着! ていうか、最初からこうすればよかった……!
そして、思わぬところから表われた百年公園の入り口で私は叫んだのでした。「そら分からんわーーー!」
ちなみに後からグーグルアースで見たところ、あまりにも地上の要塞然とした立地に笑&涙……。なんでこんなところに建てたのや。。なお、この外周及び周囲の国道を、私はぐるぐる彷徨い続けておったのでした。
さらに、入り口から博物館までもそこそこの距離があり、ダメ押しのように博物館前にはものすごい傾斜の坂があり、嫌がらせなのか?イニシエーションなのか?? 思わずに、「俺たちの何を試してるのだ!?岐阜県博物館よ!」 と天を仰いだのでした。
(本当にすごい坂で、身軽そうな子供もはあはあと息切れしていました。無料スロープカーが設置されていましたが、どうせ私が使ったらろくなことにならないと判断し、使わず。今調べたところ傾斜25度とのこと。ひどすぎる。)
そして!! なんとか入館終了5分前に入場……!
ありえなく喉が渇いていたので、博物館前で買ったCCレモンを飲み干しました。(これで入館時間に間に合わなかったら面白すぎた。) 展示の内容についても書きたいのですが、もう書く元気がありません。はるばる観に来る価値はある展示でしたが、欲を言えば、もっとゆっくり観られればもっとよかったのですが。最も衝撃的だったこととしては、福来友吉がゆるキャラ化されていた………。
帰りは係員さんにこんもり脱出法をお聞きして無事国道に出(当然車用の道順を教えてくださったのでしたが……)、連結詐欺を巧みに避けて無事に帰ることができました。帰り道、気が付くと、7年に1度くらいしか口ずさんだことがないであろう小沢健二の「ラブリー」を歌いながら走っておりました。
君と僕とは、恋に落ちなくちゃ、夜が深く、長い時を越え、オーベイベラブリラブリウェェェェ
後で調べたところ、岐阜駅から岐阜県博物館までは「14.5km」。(カフカの城ぐるぐる地獄や連結詐欺地獄を含めるともっと走っているが。しかもママチャリにワンピースで。) これは父の血だ……!と感じ(父は自称M、苦行が好き)、滅多に父にメールなどしないのですが、これは伝えねばならない!と、「14.5km走った」とメールを送ったところ、
「14.5kmとはよう走ったな!(親指を立てている絵文字) 京都やったら、五条から大原までの距離やで (きらきらした絵文字)」
という、いつになくうきうきとした返信が来ました。
この後、体重がわずかに落ちました。