睾の謎

最近のtwitter(X)、エロ広告ばかり出ますね。

先日出てきたのはコレ。

 

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「睾○マッサージ」。伏字にされると○に何かを入れて大喜利したくなるのが人情というものです。さて、何を入れようか。しかし「睾○」に「丸」以外に入るものってある?? そもそも「睾」って何???

 

そういえば「睾」を使う熟語を「睾丸」以外に知らない気がします。そんな漢字は他にもあるのでそれ自体は珍しくないのですが「睾」のことは昔から謎でした。「幸」の部分が音(コウ)を表すのかな?? だとして上のやつは何?  あみがしらのようで違うこいつは何? 睾丸の近隣、或いは類似部位を表す漢字は「肛(門)」とか「膣」とかにくづきの偏をもつけれど、この子の部首は何?

 

そんなわけで漢和辞典を繰ってみました。まず学研『漢和大字典』。ところが部首が分からないので部首引きができません。音読みから引くこととしましたが「コウ」と読む字は夥しくあってなかなか見つからない! (この後、「コウ」で引くと厄介だが訓読みである「きんたま」で引くと一発でたどり着ける、という豆知識を得ました)

 

さてまず部首ですが、なんとこれは「目」部なのだそうです。そうなんだ!「睾」の部首が「目」って、ちょっと眼球譚を思わせてなんかいいな……。でもなんで「目」部なんでしょう。これに関しては後ほど『部首ときあかし辞典』(円満字二郎、研究社)という本で言及があるのを読みました(この本はトーフさんにご教示いただきました)が、「睾」は「形の上から便宜的に」この部首に分類されている、という簡単な記述があるのみで、ではこいつ(上の部分)は実際何ものなのかはよく分かりませんでした。

 

さて次は字義ですが、『漢和大字典』には「睾丸」の意の他に「さわ」の読みで「地が低いためにできた浅い水たまり・草の茂っている水辺の丘」という意が記されています。ただし正しくは「皋」で、誤って「睾」と混同されたという説明がありました。「皋」が字形の似た「睾」と混同された結果「睾」が(本来はなかった)「皋」の意味をもつようになったということ?
さらに「睾丸の意は櫜にあてた用法」という説明もあったのですが、「あてた用法」とはどういうことなのか? そもそも「櫜(コウ)」という字を初めて見ました。なんだこいつは! これは「ゆぶくろ」という訓をもち弓袋の意だそうです。すごい字だ……。「櫜」の項目には「睾」との関係には特に記載はなく、「睾」と「櫜」が袋つながりであるということは分かったもののそれ以上はよく分かりませんでした。

 

更に平凡社『字通』(普及版)も引いてみました。白川静のやつです。こちらには、「1. さわ 2. 高い・広大、3. きんたま(字の本義)」とあり、字の成り立ちについては以下のように解説がありました。

「古い字形がなくて初形を確かめたいが、その声義よりしていえば、皋(皐)・昊の字と混同されているところがある。皋・昊・睾の字はすべてもと獣屍の象。睾の字形は特にその陰嚢・陰丸の部分が強調されたもの」

前半の記述は『漢和大辞典』と同じですが、後半は白川説なのでしょうか。獣の屍を象った字? えっ象形なん??……だとして、どのように?  どの部分が陰嚢??? 

 

そんなわけで、手近な図書館にあった漢和辞典で調べた限りでは「睾」は依然謎に包まれた謎袋でした。

 

疑問点:

・上の部分は「目」部だが、目と関係あるのかないのか。

・形の似ている「皋」「昊」と混同されてその意味ももつことになったっぽいけれど、もともとこれらの字と関係あるのかないのか(白川説だと全部共通の象形ということになるようだけど……)

・「櫜」(ゆぶくろ)とどういう関係なのよ!

・「獣屍の象」という字源説が正しいとして、なぜ?どのように?

 

twitterエロスパムのせいで睾を巡る謎の襞に迷い込んでしまいました。漢字界隈には完全なる素人であるので、参考になる文献などあれば教えていただきたいです。

 

ちなみに熟語としては、「睾如(丘などが高く突き立つ)」がありました。諸橋『大漢和』には「睾牢(一切を包括する)」「睾蘇(木の名)」などの例も。しかし「睾牢マッサージ」「睾蘇マッサージ」いずれもニッチ(???)すぎて大喜利には使えなさそうです。ってか「睾〇」って、〇=丸であるから伏字感が限りなく薄い伏字であるなあ。