薔薇色のシャボン

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ひさしぶりに、森茉莉を読んで、やっぱスゴイ!と思いました。
本書は、昭和39年に『新婦人』に連載された随筆に、佐野洋子の挿絵を付けたものです。

今回やっぱスゴイ!と思ったのはココ。


まず、茉莉流お洗濯の仕方の紹介。


洗濯用のシャボンを、薄みどりや薔薇色のオリイヴ石鹸、ミツワのベビイ・ソオプ(これは濃い乙女椿の花の色である)、真白の牛乳石鹸なぞを買い集めて色とりどりに、薄い黄金色に光る小型のボオルに入れて、かわるがわるに使うことにしているが、たちまち溶けるので不経済この上ない。


うっとりしてしまいますが、たかが「洗濯に石鹸使うねん」ということを語るのにこの仰々しさよ。
わたくしめなら、「赤っぽい子供用石鹸やら牛乳石鹸やら黄色い瓶に入れて使うてるんやけどすぐ溶けるし金かかる」としか書けないでしょう。


私は今や貧乏な人種であるが、ちょっとの金額のちがいは気にならない、という、戦前の気持の習慣が今だに残っているので平気である。だから戦前に人にいわれるたびにいやだった(勿体ないですねえ)という言葉を金持の人に対っていわない。これをいわれると、言う人にその気はなくても(お金持はちがいますねえ)といわれた感じがする。それで人の気持を悪くさせ(…)


そうそう、人のやることに「勿体ない」というの、あたしも嫌い!
言われたほうもいやな気がしますものね……と思いきや、


(…)人の気持を悪くさせないようにと思っていわないのではなくて、勿体ない、という観念がないのである。

悪くさせないようにと思って、とちゃうんか!

やはりこんなふうには絶対書けないわたくしは、自分は決してお茉莉にはなれないのだ、という事実を、厳粛な諦念と深い敬意を以って受け容れ生きてゆこうと思ったのでした。