正統派魔女小説を読もう

突然ですが、さいきん読んだ本を紹介しますよ。
我に似合わずかわいらしい本でごめんなさいよ☆


朝戸麻央 『つぼみの魔女*アナベル ―弟子の種の見つけ方』

朝戸麻央、という新人作家のデビュー作です。
新人らしく、みずみずしい作風。と思いきやその一方で、どこかどっしりと落ち着きのある作風でもあります。


落ち着きがある、というのは、端々に作者の趣味が貫かれているというか、この作者独自の世界が出来上がっている印象を受けるからでしょうか。
いつの時代ともどこの国とも書かれていないけれど、近代なりたての西洋の雰囲気。目に浮かぶような、塔、草原、森、池。そこで呼吸する子供たち。おじいさん。主人公たち。
それに、不思議な色のいきもの。古びた皮の鞄。などなど。ふしぎな幸福感に満ちた世界です。

幸福感といえば或いは、ストーリーには直接関係ないけれど、たとえばこんなシーン。


___

「ほら、あれだよ」
と彼の節くれだった指が木の根元を示す。アナベルは気づかなかったが、そこには小ぶりのバスケットがちょこんと行儀よくおさまっていた。身ぶりで開けろと示され蓋をひらくと、中には大きな牛乳瓶がひとつ、それから野菜やハム、卵とチーズの挟まれた白パンがいくつも詰めこまれていた。
「わあ、おいしそう!」
歓声を上げるアナベルに気を良くしたのか、ハンスは得意げに胸をはった。
「厨房に頼んでつつんでおいてもらったのさ。一緒にどうかね」

(pp.76-77)
____


そして、主人公アナベルとハンスおじいさんは、芝生に座りお空の下、「ふたつに割ったパンに、バターと炒り卵を挟んだもの」を食べるのですが、この食べ物描写の美味そうなことといったら。
そう、読んでいて、一緒にピクニックしたくなるのです。




肝心のストーリーはというと、おちこぼれ魔女のアナベルが、しゃべる鞄をお供に、或る任務を果たすため、学園に先生として赴任してくる、というもの。
その先で、個性的な生徒たちや、チョイ悪同僚教師やジェントルマン同僚教師に出会い、色々事件やらほんのりラヴ(?)やら起こるわけです。

ジャンルとしては、いわゆる「ライトノベル」と呼ばれるのでしょうが、そのストーリーや端正な文体は、実に正統派の児童文学のそれであるなあ、と感じました。
一方で、ツボを押さえたサーヴィスシーン(?)もあり、年甲斐なくときめきましょう。私のために争わないで的設定とか、あと、個人的には、怪我する男萌え。怪我男は良い。ファンタジーはこうでなくっちゃね!と思ったわけです。

子供と見紛う見た目のドジっ娘(←重要)だけれどしんは強い、という主人公のキャラもいいですね。関係ないですが、最近先生稼業をしておるので、アナベルのような先生になりたいものだとおもひました。似てるのは、むやみに転ぶとこだけですが。


とまれ、今後はどんなお話がつむぎだされるのか、たのしみな作家ではないでしょうか。
なお、イラストはぴたテンその他でおなじみのこげどんぼ氏で、フリルやレースがかわいらしいです。



商品がありません。