人の行くなるロックフェスといふものに我も行きてみんとて行くなり、ということで先日野外フェスに行ったのでその記録です。
行くなり、とて行ったのが、よりによってOTODAMA@泉大津フェニックス。
音泉魂すなわちOTODAMAは、長年誘われ続けていたのですが長年この季節は都合が合わず、今年が初です。「ロックフェスというより大人の文化祭という感じ」と前から聞いていたので、いろいろひどいであろうことが予想されます。
滅多に乗らない南海電車に乗ると混み混み。毎年こんなに混まないらしいのですが、今年はレキシが出るからかチケットも完売したとのこと。見ると電車に乗り合わせた人々の多くが、稲穂を携帯しており、もはやこの時点で意味が分かりません。
シャトルバスで会場に到着すると、「まさかの完売!当日券ありません」のアドバルーンが浮いており、全員失笑。
入口には「爆発物持ち込み禁止、刀禁止、鍬禁止、稲穂OK」 の注意書き(??)が。芸が細かいな!!
今回はなんといってもレキシ仕様らしく、ぷよぷよしたお城がそびえていたり、大仏が建立されていたり、会場全体が前方後円墳になったりしてました。この清水音泉の、良く言えば芸の細かさ、悪く言えば内輪ノリは、わりと好きです。
全体的に手作り感があふれ、まさに大人の文化祭って感じでした。
なんか城
城やな
「露天風呂」ステージでは、早速湯沸かしアクトのキョネンオオトリのライブが始まっていました。
キョネンオオトリはキュウソネコカミなんですが、諸事情から本日限定でこの名に変えさせられ、すべてのプログラムで「(キュウソネコカミ)」とか一切但し書き無く、「キョネンオオトリ」で通されていました。
キュウソって「若者に人気あるバンドらしい」くらいの認識しかなく、格好いいダンスロックみたいな感じやなー、お、若者たちが盛り上がって踊っておるなー、と近くに寄ると、全員拳を振り上げて
「ヤンキー、こーわいー、ヤンキー、こーわいー」
と合唱しており、清水音泉がこのバンドを推してる理由が一瞬にして解りました。
後で調べたところ「DQNなりたい、40代で死にたい」という曲でした。
あと、盛り上がる客にヴォーカルの人が、「大丈夫かー?オトダマで怪我したら恥ずかしいぞ!」と叫んでおり、OTODAMAの雰囲気と性質がよく理解される言葉だと思いました。
その後、「大浴場」ステージでの入浴宣言(四星球)、一番風呂(夜の本気ダンス)。
出演者が全員芸人のような喋りで(というか芸人も出てくる)、関西のフェスやなあ、って感じでした。
あと全員ラッシュボールをdisっていました。ラッシュボールは同じ会場で催されるフェスですが、数千人のOTODAMAに対し20000人の来場者数を誇るため、OTODAMAが勝手に敵視しているそうです。大阪vs東京、京大vs東大、みたいな関係なのでありましょう。
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序盤はシートに座ってゆっくり見ていましたが、昼になり、MUNA SEA のライブ、いやGIGを観るため「宴会場テント」へ。最初に自発的に観に行くのがまさかのムナシーとは。
ムナシーとは、ライブハウスの店長中心に結成されたルナシーコピバン……のはずが、当のヴォーカル・松原氏がご病気で出演できず、「思ったより病状が重いんじゃ!癌治ってほしいんや!」と白塗りのままシャウトするメンバーに戸惑う客たち。そうだったのか……。大人の文化祭にはこういうことがあるのだなあ。
代わりに、ゆかりのミュージシャンたちが「松薔薇チルドレン」としてヴォーカルを務めるという趣向でありました。(ルナシーの曲は曲間に流れるだけ。もはやコピバンでもなんでもない。しかしなぜかこのとき聴いたルナシーの曲はどれも異様にいい曲に聴こえた!)
松薔薇チルドレンは全員白塗りだったので当初誰が誰か分からんかったのですが、白塗りのまま観客らに抱え上げられる姿に、超ばかばかしいのだが、なんかなんていうか「ロック」を感じた! 「あ、この気持ち久しく忘れてた」と感じたんやー!掘っ立て小屋のような宴会場テントで、貧相な青年(白塗り)が若者たちに支えられている姿に!
最後の松薔薇チルドレンは、さっき出番を終えたばかりのキョネンオオトリの、「ヤンキーこーわいー、DQNなりたいー!」のメロディで、
「病気こーわいー、病気こーわいー、病気なりたい!病気なりたい!」
と絶叫。客も合唱。最後はマジックで「癌」と書かれた段ボール(ドラムセット代わりだった)を、「病気こわい!病気なりたい!」と叫びながらベリベリに破壊するというパフォーマンスに、さながら原始的な呪術を見たかのようであり、これも非常にばかばかしいのではあるが、「こういう音の力、言葉の力って久しく忘れてたな!」と感じ入るなど、えらいもん見てしもうた……。MUNA SEAなのに。まさかMUNA SEAでこんな気持ちになるとは……。
しかし最近周囲でも癌の話をよく聞くようになり他人事ではない感じです新薬効け。
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昼は「露天風呂」ステージで、怒髪天とフラカン、「大浴場」でコレクターズ、とおなじみのベテランバンドを続けて観ました。移動する間、おづみんに逢ったり、トイレの混まなさとキレイさに感動したり、ものすごい砂埃で服と靴の色が変わってしまったり。砂埃に混じって稲穂のカスみたいなんが飛んできて、「なんだこのイヴェントは!」と思ったり。
フラカンは、最近ワンマンライブを見すぎて、イヴェント用セットリストだとどうしても食い足りない感が残ってしまうのですが、しかし近くで楽器の音も声もとてもいきいきと聞こえて、「ファンキーヴァイブレーション」で目頭が熱くなるという異常事態が。絶対目頭を熱くするような曲とちゃうんやけど、「ああ、みんな好きな音楽があり、こうやってそれをライブで楽しめて。それって幸せなことやんなぁ…」とか思うとなんかじーんとしてしまったのでありました。大人の文化祭は涙もろいのや。
コレクターズは、もはや前で立って観る元気がなく(著しい体力の衰え)、シートに座ってゆったり観ました。
「時間を止めて」はやっぱりいい曲で、シートゾーンでも立って踊ってる人がたくさんいました。普遍的に、皆の心に入り込む曲というのがあるのだなあ。寝転んで聴くと、日が傾いて涼しくなってきたこともあり、大変気持ちよく、実に贅沢。周囲は薄暗くなり始めて綺麗。
うっとり目を閉じてると、突然がやがやし始めたので何かと思えば、フラカンからコレクターズへ武道館バトンの贈呈でした。加藤氏はモッズの人やのに、包装紙で作った小学生の工作のようなバトンを受け取っており、それを見た私の連れはステージに向かって走り出し(「時間を止めて」でも前に行かなんだのに)、ああほんまに学生時代に文化祭を楽しめなかった人のための文化祭なんやな……と思ひました。
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一息つき、かき氷買うて食べてるうちにさすがOTODAMA、雨が降り始め、シートが水浸しになり、雨の中、Coccoのステージが始まりました。
Coccoは昔時々聴いてたし、大御所だし、一回見ておこか、くらいの気持ちで見始めたのでしたが、始まるや茫然、滂沱。
「強く儚いものたち」に次いで「樹海の糸」。「私さえいなければ その夢を守れるわ あふれ出る憎しみを織りあげ」と歌う声に、この曲をよく聴いていた頃のことやさまざまなあれこれがこみ上げ、涙が流れて止まらなくなってしまった。本来こういう言い方は好きではないのに、「Coccoで泣かない女なんているのだろうか?」と下手なコピーのようなことを思うてしまったほどでありました。ちらりと見るだけのつもりだったのに、気圧され、最後までぽかーんと見続けてしまったのでした。
女の人は年をとってラクになりその分毒気が抜けていく人が多いと思うのですが(自分もおそらくそのタイプなのですが)、Coccoは10代、20代のときと全く印象が変わらず、ずっとこの鬼気迫るテンションで歌い続けてるのか、と畏敬の念を抱きました。
しかしその鬼気迫るCoccoのステージの後に、二人のドラマー、坂さん(怒髪天)とミスター小西(フラカン)による歌謡ショーを見ることになるのもOTODAMAならではです。もうわけがわからないよ……。
何故ロックフェスに来てカラオケを見るのか全然分かりませんが、OTODAMAでなければ見られないことも確か。宴会場テントは、おっさんのカラオケを見るために集っている人で満員であり、またミスコニ氏(敬称重複)が松山千春を予想以上に千春っぽく、上手く歌っていたのも衝撃でした。
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シートに戻る頃にはすっかり暗くなり、トリのレキシが始まり。
レキシって、流行っているらしいということを聞いていましたが、観るのも曲を聴くのも初めてです。
曲の最中にいちいち寸劇をはさむスタイル。スペシャルゲスト。そして「狩りから稲作へ」でシートの客も総立ち。「縄文土器弥生土器どっちが好き?」とかいう歌詞が、上質なポップメロディに普通に乗っている。???
フェスのトリというのは、「Champagne Supernova」みたいな曲が演奏されてみんなで壮大な気分に浸るイメージだったんですが、
「稲作中心!日本のレ・キ・シ!稲作中心!日本のレ・キ・シ!」
と若者たちが合唱して稲穂を振っている光景に、前衛的すぎる……何が起こっているの……とくらくらしました。いや、壮大は壮大やけど。めっちゃ壮大やけど!
これまで、流行ってるものに関しては、たとえ自分は良さが分からなくてもなぜ流行っているかは理解できていたのですが、ついに「すごいのは分かる、しかしほんまに流行っているとは!」という事態が出来してしまった……。これが年をとるということなのか?と思わされたショーでした。
レキシ、最後は中臣鎌足の歌「KMTR645」で盛り上がり、この曲かっこよかったです。湯沸しアクトのキョネンオオトリもこの曲をやっていたらしく、鎌足で始まり鎌足で終わるロックフェスとは? 1400年後こんなことになっているのだよ、とKMTRに教えてあげたらさぞ驚くことであろうなあ、と思いました。
蘇我入鹿の声が響き渡る中を、しかしわれわれは、本当のオオトリを観るため、出口近くに建てられた小さなセッチューフリーテントへ。
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セッチューフリーテントでは、毎年恒例というワタナベイビーの弾き語りでひっそりフィナーレ。
浪人生の頃、当時デビューしたてだった「ホフディラン」をよく聴いていて、この人の声にはずいぶん元気づけられたものですが、実物を観るのは初めてです。どこにでもいそうな男性が、年季の入ったギターを鳴らし喋り声から歌声になると、いきなりワタナベイビーになり、ああっ!と思いました。
曲を知らないというミスター小西(一日に三回もミスター小西のステージを観るとは)に無理やりドラムを叩かせながら、浪人生の頃よく聴いていた懐かしい歌が唄われて、優しい気持ちに。毎年の恒例らしい鈴木圭介との「スマイル」デュエットもよかった。
途中からは、突然「リンダリンダ」「人にやさしく」「さよなら人類」など他人の曲で盛り上がり始め、客たちは大合唱、日本の中年ロックファンたちへのサーヴィスコーナーみたいになっておりました。ラストでは、そのへんにいた出演者全員舞台に上げて「雨上がりの夜空に」で、中年ロックファンたちは静かに決壊、ジンライムのようなお月様!
満足して出口へ向かうと、出口では音泉スタッフが、「オトダマタオルまだ10枚残ってまーす…」と言いながら売り歩いており、「もう10枚しかありません!」とか言わないところが清水音泉らしいなあ、と思いました。
帰りのバスでは「ラッシュボールは2万人♪音泉魂数千人♪」というひどい曲が流れており、もうやめて………。
しかし、知らなかった新しいものを知ったり、親しんだものに再会したりという、いろいろひどいが良いフェスでした。これ以来気になってキュウソ(キョネン)とレキシを聴いております。レキシのSHIKIBUのPVは近所です。