きゅんとするとは


以前に、犬に置き換えて聴くことでラブソングが解った、ということを書きました。
類似の話は毎日のようにしているので、またか、と思われそうですが、日々、犬への感情からの類推で、人間の感情を知ることの連続です。私は今まで感情薄く生きてきたのかもしれません。
たとえば、好きな人と結婚したい(=自分たちの絆を公的に認められたい)と思う気持ちとか、ぜんぜん分からんかったんですが、犬が来てから、分かるようになりました。ただまめ子の合意の有無が確認できないのが残念なことです。


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で、その、「犬に置き換えて分かった」シリーズとして、「きゅんとするしぐさ」 というものがあります。

よく、テレビやネットで、「異性のきゅんとするしぐさランキング」 みたいなものがあげられていますが、いまいち、他人の「しぐさにきゅんとする」ということが分からないのです。
きゅんとする男性のしぐさとしてテッパン的に言及されるのは、

・ 運転中にギアをチェンジする
・ 片手を助手席の背もたれにかけ車をバックさせる

あたりでありましょうか?
だが、実際見てみても、どうもいまいちきゅんとしませんでした。
そもそも男性にあまりきゅんとできないのだろうか?では女性ならきゅんとできるか?といえば、

・ 髪をかきあげる
・ 上目遣いで小首をかしげる
・ 大きめのシャツから指の先だけ出して袖口をつかむ

どれもかわいいのは分かるが、べつにきゅんとはしない……

しかし!
「きゅんとする犬のしぐさ」をあげよ、と言われれば、8時間くらい挙げつづけられることに気づいたのです!

・ さんぽに行く前に前脚と後ろ脚をそれぞれのばす
・ 前脚を階段にかけ直立状態で上を見上げている
・ 顔に何かついてうっとうしいとき、こすっ!こすっ! とおててで鼻のあたりをこする
・ こちらに背中を向けながら耳だけこちらに向けて話を聞いている
・ じぶんのしっぽを追いかける
・ 「おて」しようとして片手だけ宙をさまよっている
・ さんぽから帰りたくないとき、前脚をふんばり尻をこころもち上げる
・ ごろん状態で停止しようとするが停止できず無駄にごろんごろんなっている
・ 両手を前方に伸ばしその間に顎を挟んで寝ている
………
……etc……

無限に列挙できるぞ!
さらに、まめ子が上目遣いで小首をかしげたりしたら、絶対きゅんとする! まめ子がギアチェンジをしたり、片手を助手席にかけて車をバックさせたりしたらーーー!!


どうやらわたしはこれまで、きゅん的には全く貧しい人生を送ってたのかもしれません。犬に萌える勢いで人間にも萌えていれば、もっと充実した人生だったような気がします。
昔、ミラン・クンデラの『存在の耐えられない軽さ』 で、「なぜ人は犬を愛するように人を愛せないのか」(大意)という文句を読み、非常な感銘を受けたのですが、ラブソングなど聴くにつけ、意外に他の人は、犬を愛するように人を愛しているんやなあと驚きます。


ですが、このように言ったからといって、わたしが人間嫌いとか、犬よりヒトをダメだと思っているということはありません。(たしかにあらゆる面でヒトは犬よりダメですが。)
わたしも人間にきゅんとしたこともあるはずであって、では人間のきゅんポイントはどこであろう? と考えてみたところ、自分の頻きゅんポイントは、文体でないか、と気づきました。文体は、犬のもたないもの、ヒト独自のものであります。
(きゅんポイントが文体、などというと、なんか知的ぶったふしぎちゃんみたいでイヤですが、文体とは、様々な下世話の舞台です。あと、即物的に「好きな部位」は、犬についてもヒトについても同じくらいあります。犬・ヒト共通で好きなのは腹と乳と内腿です。)