犬が来た頃


2005年頃、わたしは、20代最大の鬱期をむかえておりました。それと同時に、身辺も諸々激動の時期でありました。親族の死、祖父が倒れ、長年続いた店を畳むことが決定、などなど……。
そんな中、一匹の犬がわが町内に迷い込んできたのであります!
それがまめ子であり、それがその年の9月21日でありました。
よって今日は、7年目のまめ子記念日ということになります。

この経緯は以前にも書きましたが、当時、mixiで書いていた日記があるので、以下に貼っておきます。

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まよいいぬ 2005年09月22日00:14


まよいいぬがいまうちにいる。

迷い犬は、朝から近所をまよっていた。
近所のいぬ好きのひとが保護した。
交番に届け、ねっとでも調べたが、どこのいぬだか分からないそうだ。

今日一日、近所はそのいぬのことで持ちきりであった。
わたしが出かける前、近所のひとたち(うちの家族含む)がいぬの周囲に集い、あれやこれやと盛り上がっていた。
数時間して帰ってくると、まだ彼らはそこにいて、いぬ祭がつづいていた。
いぬは、「町内」という名前をつけられていた。

ちょうない………


夜になって、いぬは、とりあえず近所の空き地に小屋をつくって入れておかれることになった。
近所のいぬ好きのひとの家には、いぬがいすぎて、もうそれ以上いぬを入れられなかったからである。

夜遅くになって、いぬ好きのいもうとが帰ってきた。
いぬ好きのいもうとは、対人間的にはヤクザだが対いぬ的には観音のようないぬ好きである。
いぬ好きのいもうとに、まよいいぬの話をしたところ、いもうとはさっそく空き地へ駆けつけ、いぬを抱きかかえてうちに帰ってきた。


いぬは、非常におとなしいいぬである。
淋しい目をしてしゅんと座っている。
ちっとも声を出さない。
怯えている。
かわいそう。

いぬはメスだった。
経産いぬらしく、授乳したあとがある。
母が早速「名前は、町内はやめて、乳子にしよう」と例のセンスで提案したが、却下となった。
ふと、いぬが血を流していることに気付いた。
いぬは月経中だった。
ふしぎな気がした。
なぜなら、わたしは今月経前である。
そして、女が何人か一緒に暮らしていると周期が同期してくるというが、確かにその通りで、いもうとたちも現在生理中なのである。
そのような、出血姉妹のところへ、出血いぬが迷いこんできたのである。

いぬはとりあえず、店の倉庫の空きスペースに座っている。

店をやめることは先日も書いたが、ちょうど今月シメの仕事が終わったので、倉庫のスペースが空いたところだったのだ。
それに、今までいもうとはいぬを飼いたがっていたのだが飼えなかったのは店をやっているせいだったので、このタイミングでまよいこんできたのは、うちに置いてくれと言っているかのようである。ていうか、いもうとは既に飼う気になって、現在散歩に出かけていった。


わたしも、なぜかそのいぬを見たとたん可愛くてしかたなくなったので、運命かもしれないとおもう。でも、うちにはいぬ恐怖症のいもうともいるし、第一飼い主がみつかるかもしれないし(まあそれが一番いいのかもしれないが)、どうなることやら。


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ちょっとややこしいので補足しておきますと、うちには「犬好きの妹」と「犬恐怖症の妹」がおり、まめ子を連れ帰ってきたのはもちろん前者でした。その時間、後者の妹は既に就寝しており、「明日の朝、家に犬がいると分かったらパニックになるのでないか…」 などなどの心配もしつつこの日記を書いていたのです。

ところが翌朝、犬の姿を見つけても、妹はさほど動じず、
「行くところがないんやったらうちで飼うてもええで」
と言ったのでした! 奇蹟!
普段、犬恐怖症の妹は、外出して犬に遭遇すると、わざわざ遠回りしたり家に戻ってきたりするほど犬が苦手なのです。
(ちなみに、犬好きのほうの妹は、当時、長時間化粧してちゃんとした服を着ないと近くのコンビニも行けないような強迫の持主だったのですが、この日、眉毛も書かず寝巻きで犬のさんぽに出かけたことも衝撃でありました。)


また、わたしもそれまで特に犬好きでもなかった、というかむしろ犬は苦手であり、生涯において犬を飼うことなどなかろうと思っていたのですが(注:パグとかフレンチブルとかの豚系犬だけは好きで、飼うならそれ系の小型犬だなとおもってた、まめ子サイズには興味がなかったのです)、そのわたしの犬人生もこれ以降一変することとなります。



捕獲直後。名前が「町内」になりかけていた頃



うちに来た翌朝





この後、犬ビラを作り飼い主を探したのですが、飼い主は見つからず、そうこうしているうちにわれわれは、この小汚い犬に魅せられてしまうことに……
以下は、その約1週間後の日記。

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出血いぬ ハーネス 2005年09月27日01:55

さてその後であるが、いぬはまだ家にいる。
相変わらず怯えているが、初日に比べると馴れた。
ふしぎなことに、犬恐怖症のいもうとも、このいぬはそれほど怖がらない。

名前は未だ無いままで、めいめい適当に読んでいる。
わたしは「いぬぽ」か「まめ子」と呼んでいるのだが、いもうとたちは、「すみちゃん」と呼んでいる(いつも隅っこにいるから)。母は「マーガレット」略して「マギー」と呼んでいたが、「審司か?」と父に言われて以来マギーはやめて「乳子」に戻った。祖母は「なっち」と呼んでいる(若い時に飼っていた犬の名らしい)。
いぬは、そのいずれも、じぶんの名前だとは思っていないようである。
ちゃんと名前をひとつに決めてやらねば…という気はするのだが、児童文学で数知れず読んだあの黄金パタン、


―― 元の飼い主「うちのシャルロッテちゃんを預かってくだすってありがとうざます、これ、きもちばかりですけどお礼ざます、ホホホホ、さ、シャルロッテちゃん、おうちに帰りましょ」
―― 犬 「わんわん!」
―― 主人公 「(ちがう!シャルロッテじゃない!ごんべなんだ!僕のごんべ!)」
―去ってゆく元の飼い主と犬
―― 主人公 「ごんべ!」
―― 犬 一瞬振り返る
―― 元の飼い主「何してるの、シャルロッテちゃん、帰るわよ」
―夕闇に溶けてゆく元の飼い主と犬
―― 主人公 「…………ごんべ!!(涙)」

というパタン、すなわち「名前決めると飼い主が現れる」の法則を考えると複雑である。


それはまあいいのだが、とりあえずさんぽをするためにホームセンターでハーネスとリードを購入した。(ついでにいぬお菓子も。)
いぬ用品なんか買うたことないのでやたらとうろうろしてしまった。
はぢめて恋人ができてプレゼントを買うときはこんなきぶんなのだらうか。。知らんけど。

乳子(仮名)はけっこう大きめなので、あんまり種類がなかった。
小型犬用のは種類も豊富で、安くて、かわいいやつがいっぱいあるのに。
サイズが大きくなるほど、高くなってかわいくなくなるのは、人間のブラジャーといっしょですな。
一番値段が手ごろでデザインがましだった、マルチボーダーのを買ってみた。
地味なうちのいぬには似合わないかな、と思ったけど。。

ボディピース祭(前回参照)を終えて帰宅すると、いぬも「多い日」らしく、けっこう血を出していた。
君もたいへんですな、とおもった。
いぬの横にすわった。
いぬは自分で股間を舐めて、出た血液をぺろぺろしていた。
わたしにはそんな芸当はできないよ。君はボディピースなどつけないのだね。

さんぽの用意をすると、はぢめてしっぽをふりふりした。
マルチボーダーは意外と似合った。
サイズも合ってたのでよかったです。


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ボディピースというのは当時出ていた変な生理用品です(現在廃番・詳しくはわたしの「生理用品ミシュラン」をご覧ください)。
初めて犬用品を買うたり、元の飼い主の登場を怖れたりと、初々しい記述ですね。
あと、初期名が「乳子」だったというのもひどい話です。
この後しばらく日記が無いので正確な命名記念日は分からないのですが、この2週間後くらいには「まめ子」という名で全員一致したようです。(母だけは半年ほど「マギー」と呼んでいた。)


はじめてのだっこ




はじめてのさんぽ
(この頃はふんばって家に入ろうとしなかった)




命名



これ以降の犬愛の加速は、みなさまご存知の通りでございます。どこから来たのか、どんな前歴なのか、結局何も分からないまま七年目のまめ子。今でも放浪時代や以前の飼い主を思い出したりするのでしょうか…。
なお、まめ子が来てひと月が経った頃には、わたしの研究室のPCのデスクトップは、既にこのような状態となっておりました。↓










そして、本日のご様子。



もうシニアですが、まだまだ元気です!





【まめ子七年目の心を詠める】

忍ぶれど 色に出にけり 我が恋は 犬や思ふと 人の問ふ迄

飼ひみての のちの心に くらぶれば 昔は犬を 思はざりけり