好きなことば(2)


もともとゴシックは流行や時代精神への批判であり、好悪のフィルターを通さないままやみくもに新しさにとびつこうとする安易さ卑俗さを否定するものである。また、無理をしてバランスのよさをめざさず偏奇なまま、善悪や利害よりも好悪に忠実であることがゴシックの条件であった筈だ。
大切なことは本当にそれを語りたいか否かであって、ある主題を語れば受けるから、とか、今のうちなら新鮮だから、といった思惑による言葉は一切拒絶したい。また「本当はたいしてよいと思わないが、今の状況ではこれに価値があるとしておくのが戦略的に有利だからそう言っておく」といった、現状蔑視から始まるシニシズムもゴスの敵である。嫌いを嫌い、好きを好きと言えないで、状況を読む巧みさばかり見せつけ、それによって自らの賢さを誇ろうとする奴等に呪いあれ。


高原英理 『ゴシックスピリット』 あとがき、朝日新聞社、2007、260-1頁)